各分野の支援状況
1. 保健・栄養
現状と課題 保健分野における地震に影響は甚大なものでした。30,000人の負傷者に加え、地元の保健スタッフの半数が亡くなったり行方がわからなくなり、ほとんどすべての保健施設(95のコミュニティレベルの保健所、24の地域保健センター、3つの病院)が倒壊しました。この設備と人材双方の欠如によって負傷者への対応が困難になり、およそ12,000人の重傷患者は飛行機で他地域の病院に搬送されました。また予防接種、妊産婦ケアといった子どもや母親たちへの基本的な保健サービスが混乱を極めています。
バムの町は最初の緊急段階から脱しつつありますが、予防的な保健サービスの中断や水、トイレなどの不備によって、依然として病気発生率や死亡率が増加していく危険が高い状況です。例えばコレラや腸チフスはこれまでもこの地域で発生していましたが、衛生状態の悪化によって増大する恐れがあります。
これまでのユニセフ活動
- ユニセフは、地震以前にバム地域で5歳以上の子どもを対象にはしかの予防接種を実施しており、その接種率は90%にのぼっています。このことが、地震後のはしかの流行を防ぐことに役立ちました。
- 地震直後、ユニセフは120,000人を対象とした救急セットや薬、150人の出産に対応できる出産キット、7,600枚の乳児用毛布等を配布しました。
- ユニセフは地震の翌日、医師を含む技術チームをバムに派遣し、現状調査とイラン政府やNGO等との調整を行いました。
今後の活動 ユニセフは、保健分野の建て直しを図るための中・長期的な復興計画について、地域、県、国家レベルでの話し合いを続けており、ユニセフが今後実施する子どもの栄養不良改善のための活動も、中・長期的視野に立って行っていきます。それには、保健員だけでなく住民に対しても、健康に良い食べ物を選ぶことや母乳育児についての意識を高める働きかけをしていくことも含まれます。また、緊急的な栄養支援として、ユニセフは孤児となった子どもたちが収容されているケアセンターに重点を置いて、栄養補助食の支給等を行います。
ユニセフは、今後も保健システムの再構築を見据えながらイラン保健省、WHO、UNFPA、国内外のNGO等と緊密な連携を取り、最終的には18,000人の子どもたちに対し、緊急的な栄養改善、栄養状態のモニタリング、予防接種の推進などの活動を通じた支援をしていきます。
期待される成果 ユニセフの活動によって、次のような効果が期待されています。
- 予防接種事業を引き続き広く実施し、病気の発生を防ぐ
- 子どもの栄養不良の増加を防ぐ
- 保護者や保健員等が、子どもの栄養不良を防ぐための知識や方法を習得する
- 保健員は、バムの子どもたちの成長や栄養状態を継続的にモニタリングする
2. 水と衛生
現状と課題 従来、バムの水は11基の掘り抜き井戸でまかなわれ、地震前は97,000人のバムの人口に対し35,000立方メートル/日の水が供給されていました。地震は、2基の井戸と2つの主な給水ラインのうちの1つを破壊しました。その結果、町のいくつかの地域では、今も給水システムが遮断されています。
バム近郊でも、給水設備の20%が破壊されました。現在でも60の村落では安全な水を入手するのが難しく、給水タンクによる配給に頼っています。
同様に、バムから逃れた避難民を受け入れている村々でも、水不足が懸念されています。地震による人口の移動分布を見直して、現状を調査する必要が出てきています。
トイレや廃棄物処理設備の不足も、バム全域にわたって問題となっています。ほとんどの住民は地震の日以来体を洗っていません。トイレ、シャワー、石鹸などが何もないままひとつのテントに7〜10人が暮らしており、住民、特に女性や乳幼児はとても厳しい生活を強いられています。
衛生設備の不足や瓦礫の撤去作業によって発生する埃などが、バム地域の水質の悪化や大気汚染による病気の増加を招きかねません。
これまでのユニセフ活動 ユニセフは、地震直後からできるだけ多くの被災者に飲み水を提供することに加え、次のような活動を行いました。
- 浄水剤625,000錠の提供
- コミュニティ用の給水タンク(1基5,000リットル)の提供
- 給水施設用の発電機3台の提供
- 給水事情調査に関する政府やNGOへの技術協力
- 水質モニタリング用の水質検査キットの提供
- 被害調査と今後の復興計画立案に関する政府やNGOへの支援
今後の活動 水と衛生分野の中心支援機関として、今後も被災住民が安全な水や衛生的な環境を手に入れ、汚水などが原因の病気の発生を抑えるために、イラン保健省、ケルマン県の水道会社、主要なNGO等と協力をしながら活動を続けます。ユニセフの活動は、まずトイレなどの衛生設備を整え、公衆衛生に関する意識を広めること、そして可能であれば施設の改修へと広げていきます。今後の具体的な活動内容は、以下のとおりです。
- 井戸、ポンプなど給水施設の改修
- 75,000人を対象にトイレ、シャワーなど衛生施設の建設
- 水質検査を継続させるための水質検査キットおよび浄水剤の提供
- 給水システムが破壊されている地域や避難民75,000人を対象にした貯水容器の
配布
- 地元メディアや教師、保健センター等を通じた公衆衛生に関する広報
- 女性用トイレ、シャワーなどのニーズに関する広報
期待される成果 これらの活動によって、次のような効果が期待されます。
- 被災者(約200,000人)が皆適切な衛生施設を使用でき、病気の発生を防ぐ
- バム近郊の地域でも、安全な水がより確実に手に入れることができるようになる
- バムの貯水池の水質が安全に保たれる
- 幼い子どもの下痢やコレラなど汚水が原因の病気の発生率を最低限に抑える
- 給水施設のダメージが最も大きかった地域でも、一人あたり15リットル/日の水は供給される
- 避難テントにおいても、十分な水とトイレが使用できる
- 公衆衛生に関する情報が提供され、緊急時における健康悪化を避ける
3. 教育
現状と課題 最新のイラン政府の発表では、地震前に32,443人いた学齢期の子どものうち、9,000人〜10,000人が亡くなり、3,400人いた教師のうち1,000人が亡くなったと見られています。生き残った20,000人の子どもたちの多くも家族を失い、特に孤児となった子どもは、特別なケアを必要としています。
被災した子どもたちそして教師にとって、一日も早い学校の再開が必要です。学校は、子どもたちが混乱の日々から日常の感覚を取り戻すことに役立ちます。子どもたちが学校に集うことで、コミュニティに生活を再建しようという前向きな勢いが生じ、また子どもたちに対する心理ケアを進めることができます。さらに、学校の再開は、バムの町から人々が出ていくことを防ぎ、避難していた人々を呼び戻す役割も果たすでしょう。
しかしながら、バムの学校施設はほとんどが破壊され、教育の再建は容易ではありません。バムにある学校の90%にあたる131校が倒壊し、残った学校も修復が必要です。ユニセフを含む国際機関は、地震後すぐに授業やレクリエーションのためのテントを調達しましたが、テントを設置する場所を選定したり水やトイレを確保するのも大変な作業です。また、計画は、住民の移住や帰還の動向を考慮に入れて行われなければなりませんでした。テントが設置されれば、次には授業や心理ケアに必要な物資が必要になるのです。
教師の死亡や移住も大きな問題です。125人の小学校教師と180〜200人の中・高校教師がすでにバムに戻り、教育の現場に帰ってくることになっていますが、教師自身家族との生活を立て直さなくてはなりません。子どもたちをケアするためには、教師やその家族にも安全な生活が必要なのです。教師も、地震によって強いショックを受けており、生徒を支援していくために教師も心理的サポートを必要としています。また、これら教師の状況から、緊急的な教育ニーズに対応するためには、他地域の教師やボランティアによる代替教師を募る必要があります。
これまでのユニセフ活動 ユニセフは、いち早く教育資材を提供し、現地のパートナーとともに次のような支援を行いました。
- 12月30日にスクール・イン・ア・ボックス416セットを調達。1セットには、生徒80人と教師のための学習資材が含まれる。
- 現在もイラン政府等と学校再開の時期、学校再建の場所、教師の状況、ボランティアの募集、心理ケア、教師へのトレーニング、学習資材の調達、孤児等のケアなど様々な問題について協議を進めている。
今後の活動 今回の地震の被害を考えると、町の再建には1年半〜2年以上の年月が必要だと思われます。そのため、新しい学校が建設される前に仮設の学校を設置しなければなりません。ユニセフは、一日も早く授業を再開できるよう、まず仮設の学校の設置に力を注いでいきます。特に、授業を再開した際に、親を亡くした子どもたち等が学校から離れていかないように注意をしています。さらに、地域の性差に対する価値観の中で、女の子の復学と心理的な支援の必要性に注目していきます。ユニセフは、ケルマン州の教育省や識字団体、初等教育局などと緊密に連携を取りながら、次のような優先課題に取り組んでいきます。
- 仮設の学校施設を整え、2,000〜3,000人の特に支援の必要な子どもたちへの教育や支援の提供
- 臨時教室設置のための土地の選定
- 学校用テント、教育資材、文具、レクリエーション用具、スポーツ用具などの提供
- スクール・イン・ア・ボックス416セットの配布
- 被災した教師がバムに戻ってくるための支援
- 学校で働ける地域ボランティアの募集
- 教育の中での心理ケアに関するトレーニング内容の検討
期待される成果
- 学校の再建地が決定され、小学校の生徒と教師が学校に戻ってくる
- コミュニティや地域行政との連携で基礎教育が再開される
- 家族をなくした子どもなど特に保護の必要な子どもに十分なケアがされる
- 子どもを学校に通わせるよう親たちを誘導する
- 授業用の資材や文具が学校に整えられる
- 早期の学校再開のためのテントが提供される
- 教師の不足を補強するため、地域の人々が動員される
- 地域のボランティアや教師は、子どもへの心理サポートに関するトレーニングを受講する
- 子どもたちに日常の感覚を取り戻させるためのリクリエーション資材が提供される
- 子どもたちが学び、遊び、地震のトラウマから回復していく
4. 子どもの保護
現状と課題 今回の地震は、子どもたちに大きな悲しみを残しました。特に親を亡くした子どものショックは大きく、それ以外にも、事実上ほとんどの子どもが親戚や友だちを失っています。家は瓦礫と化し、寒いテントで夜を明かし、子どもたちの生活からは日常の感覚が奪われています。ショックのために自分の名前も親が生きているかどうかも話すことができず、路上を一人さまよっている子どもたちもいました。子どもたちには、安全な遊び場や遊具などを含め、大きな心の傷を癒していくための心理ケアがすぐにも必要なのです。
地震によって、1,800人の子どもが両親を亡くし、5,000人がどちらかの親を亡くしたと見られています。バムにあった3つの孤児院は倒壊し、そこで暮らしていた75人のうち生き残ったのはわずか27人でした。イラン政府は、孤児や家族と離れ離れになった子どもを登録するための仮設の子ども保護施設を設置しました。また同時に、孤児たちは適切な保護と親族との再会プログラムを受けるために、テヘランやケルマンに移されました。
また、配偶者を失った多く親たちも、厳しい状態におかれています。特に夫を亡くした母親たちは、男性優位の地域社会の中で仕事も得られず、耳を傾けてもらうこともできません。青年期の子どもたちも、彼ら自身の心の傷を癒すための支援を受けることも学校に行くことも犠牲にして家族を助けなければなりません。孤児、夫を亡くした母親、若者たちは、こうした緊急事態にしばしば見られるような、大きな危険にさらされています。
これまでのユニセフ活動 地震から数日以内に、ユニセフは子どものための下記のような支援物資を届けました。また、地震前にユニセフが精神保健員やソーシャルワーカーに対して行ってきた心理ケアトレーニングが、今回の地震後の活動に非常に役立ちました。
- 7,600枚の乳児用毛布を含めた14,000枚の毛布、あらゆるサイズの冬用衣類、ブーツ、靴下等10,000セットの提供
- 冬用テント、防水シート、ロープなどシェルター用資材の提供
- 家族とはぐれた子どもたちの再開事業の支援
- イラン政府やNGO等に対する心理ケア強化のための技術支援
今後の活動 ユニセフは、子どもの保護事業を主導する機関として、保健省の精神保健部門、福祉機関、主要なNGO等を連携して活動します。
ユニセフの活動は、子どものケアと保護、保護者との再会プログラムへの支援に重点をおいて、下記の支援活動を展開します。同時に、遊びやレクリエーションの場をつくり、子どもたちの心理ケアを支援していきます。こうした活動には地域の人々−特に若者−の参加を促し、住民が前向きに地域の再建に取り組んでいけるよう努力しています。
- 1,000人以上の就学前の子どもたちに対する心理ケアサポート
- 親を亡くした6,800人の子どもたちへの食料、衣類等の緊急支援、保健サービスや学校へのアクセス支援
- 家族とはぐれた子どもの身元調査及び再会事業の支援
- 再開を果たした家族への食料、衣類などの物資支援とカウンセリング
- ケルマンの施設に移された子どもたちができるだけ家族的な環境のもとで保護されるための支援
期待される成果 これらの活動によって、
- バムの子どもたちが地震のショックを癒す適切なケアを受けられる
- 親を亡くした子どもたちが皆十分な食べ物、衣類、薬などのサービスや保護が受けられる
- 家族とはぐれた子どもたちが十分な保護を受け、家族や親戚と再会したり、またそれに代わる環境のもとでケアされることを目指しています。
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