財団法人日本ユニセフ協会




イラクの子どもたちのためのユニセフ緊急・復興支援

最新活動報告
2003年11月〜2004年1月

 

 ユニセフが、2003年にイラクの子どもたちのために国際社会に対して呼びかけた支援要請額は18,300万米ドルでしたが、これに対して、17,000万米ドルという多大なるご支援を得ることができました(対支援額の93%を確保できたことになります)。ユニセフ・イラク事務所は、25カ国以上の政府、ならびに23のユニセフ国内委員会を通して3,400万米ドルを拠出してくださった一般の方々に対して深く感謝の意を表します。
 

治安状況

 ユニセフは、イラク国内でのプログラムを実施するにあたり、ほかの国連機関と同様、多くの制約を受けています。11月以来、イラクへの飛行が全面禁止になっており、また以前は、主要なイラク人スタッフがバグダッドとアンマンの間を定期的に往復し、プログラム実施を維持していましたが、12月に人道支援者に対する攻撃が増加したため、12月18日からイラク国内のすべての国連事務所が閉鎖されました。
 ユニセフは、こうした状況下でも、イラク人スタッフを中心に学校や保健センターへの支援、上下水道施設の修復、給水、子どもに優しいセンターの事業を継続してきました。それでも、活動の主体となるイラク人スタッフがイラク事務所に戻ることができなければ、新しいプロジェクトを導入することも、研修活動を実施すること難しくなってしまいます。そのため、12月に、ユニセフの中東・北アフリカ地域事務所とニューヨーク本部のスタッフが、現在アンマン事務所にいるイラク事務所のスタッフと合流し、現在の課題を分析し、今後の方針を話し合いました。
 現在、治安担当のイラク人スタッフが、家を離れて、ときどき仕事することを許されていますが、今後、治安状況が多少でもよくなり、最低セキュリティ基準に合った事務所が3月に開設されれば、活動範囲も広がるものと思われます。また、今年の半ばに予定されている新暫定政府の設置が実現すれば、プログラム実施もさらに拍車がかかるものと期待されています。
 それまでの間、ユニセフは国連のそのほかの機関と緊密に連携をとり、イラクの復興と開発に向けての包括的な計画を立てていく予定です。

子どものための支援活動

1.水と衛生

給水:
 現在も、治安の悪さにもかかわらず、飲料水の給水活動はバグダッドで450万リットル、バスラとその近郊では300万リットル、モスルとキルクークのコミュニティでは1日約200万リットルの規模で行われています。全国的に言えば、ユニセフは毎日50万人に水を提供していることになります。

修復・復興:
 イラクの18州のうち10州において、上水道・下水道施設の修復活動が、民間の下請け会社を通して行われており、浄水施設、ポンプ場、下水処理場、下水ポンプ場、水道網等に対する修復など現在200余りのプロジェクトが行われています。これには25以上の浄水施設やコンパクト・ユニットが含まれ、75万人を助けています。120キロにわたる水道が壊れたモスルやキルクークでも水道の修復が行われ、25万人が安全な飲み水を手に入れられるようになりました。
 またユニセフは、浄水施設に浄水剤(塩素、さらし粉、硫酸アルミニウム)の提供もしています。

衛生:
 ユニセフは地元のNGO並びに、モスルとキルクークの保健局と協働で、個人衛生と環境衛生に力点を置きながら、水の使用方法、個人衛生、固形ゴミの廃棄の仕方など、衛生知識の伝達に努力しています。2003年11月から2004年1月までに、ユニセフは1万トンの固形ゴミの廃棄を支援しました。キルクークにある2つのゴミ廃棄場の建設にユニセフは関わり、子どもに安全な環境を提供することができました。

2.保健と栄養

定期予防接種:
 2004年3月末までにイラク国内で必要とされる量のワクチンが、2003年11月にバグダッドに到着。ユニセフが提供したこの拡大予防接種用ワクチンにより、5歳未満児の420万人が、そして妊産婦70万人が予防接種を受けることができます。保健省の拡大予防接種局の調査によれば、キャッチ・アップ・キャンペーンにより、10月に24万人が、11月には19万人の子どもたちが予防接種を受けたとされています。MMR(はしか、おたふく風邪、風疹)のワクチン100万回分が、15カ月目の赤ん坊に対する2004年度の定期予防接種用に提供されました。そのほか、イラクに提供されたワクチンとしては(12月1日現在)以下があります:

  • はしか 355万回分
  • BCGが180万回分
  • B型肝炎が350万回分
  • 破傷風が290万回分
  • 経口ポリオワクチン 1,000万回分
  • ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合 213万回分
 また、2003年12月15日現在、ユニセフは医者140人、保健員203人に対して予防保健サービス、予防接種、保健管理についての研修を実施しました。
 さらにユニセフは、再使用が出来ない安全な形の注射器を南部イラクに提供し、はしかの流行を防ぐことができました。そのほかに発電機15台、コールド・ルーム(低温庫)15台、ケロシン型の冷蔵庫400台、燃料1万リットルを提供し、バグダッドとそのほかの州のコールド・チェーン・システムの改善に寄与しました。また、コンピュータ、プリンター、電話を保健省に提供したり、母子保健サービスについてのデータ収集や広報にも貢献しました。これらは、下痢性疾患の抑制、拡大予防接種、そのほかのプログラムにも役立てられました。

対象を絞り込んだ栄養プログラム:
 11月に、ユニセフでは保健省と栄養研究機関(NRI)への支援の一環として、基礎保健ケア・センター(PHC)の保健員540人、コミュニティ子どもケア・ユニット(CCCU)のボランティアに対して、栄養不良の子どもの探し出し方、成長モニタリング、リハビリ、急性栄養不良児の管理についての研修を実施しました。
 ユニセフは、このほかにも、高たんぱくビスケット(HPB)330トンの全州への配布を支援。2003年11月から2004年1月の期間中、妊産婦・授乳中の女性と栄養不良の子ども(5歳未満)合わせて12万人以上が、栄養補強用の高たんぱくビスケット1カ月分を受けることができました。

保健教育:
 若者をターゲットに、知識の実践と習得についての基礎調査(KAP)を行っていますが、これは治安のために一時的に中断されています。しかし、プリテストと質問票の準備は進んでいて、調査員とデータ処理担当向けの調査マニュアルや調査に際しての指示書も準備が整いつつあります。サンプリングの戦略も、ほぼ立てられ、治安状況がよければ、研修プログラムも開始される予定です。

3.教育

 ユニセフが支援したごく最近の活動としては、1年生から12年生までの18,000校をカバーした全国レベルでの学校調査があります。これは、教育省が実施したもので就学率、在籍率、ジェンダーや地理的な差によるデータの違いなどについて最新データ、重要データをとることができました。

学校の修復:
 2003年に、ユニセフはイラク国内で162校の学校の修復を終え、子どもたちに適切な施設を提供できるようになりました。現在修復中の学校が61、工事の入札を行っている学校が77校、評価中の学校が151校となっています。また、NGO、国連機関、教育省、教育局で、修復を要する学校の名前など情報の共有がさらに強化されています。

バック・トゥ・スクール:
 2003年末までに、スクール・キットの95%までが、全国の教育局や学校に配布され、イラク国内すべての学校に必要教材が揃ったことになります。

教科書の印刷と配布:
 イラク国外で印刷された3,300万冊に及ぶ教科書は、すでにイラク国内の教育局への配布を終えました。イラクで印刷された1,100万冊の教科書のうち、600万冊はすでに配布され、2004年2月までには、残りの500万冊も配布先に届く予定です。

4.子どもの保護

バグダッドとバスラ州での「子どもに優しい空間」:
image  毎週2500人の子どもたちが参加している「子どもに優しい空間」プロジェクトをさらに6カ月延長する「合意書」にユニセフとイタリアのNGOが調印しました。このプロジェクトでは、レクリエーション活動、職業訓練、教育活動を通して、6歳〜18歳の子どもに安全な場所と教育的環境を提供すること、そして子どもの成長にとってマイナスとなる、暴力、学校からの途中退学、経済的搾取、社会差別などを削減することをを目的としています。

チャイルド・ホーム:
 ユニセフと国際NGOは、労働と社会問題省(MOLSA)との協働で、子どものためのレクリエーション活動や教育活動を提供しています。チャイルド・ホームは、50人中15人の子どもたちを家族や親戚と再会させることに成功しています。また、ユニセフはここに住む子どもたちの日常品についても支援しています。

ユース・クラブ:
 ユニセフと NCA=ノルウェー教会エイドは、ユース・クラブの運営を行っている地元委員会を継続的に支援しています。ユース・クラブは地元の避難民や難民の子どもたち(5〜18歳)が、搾取の犠牲にならないよう安全な環境の提供しています。カリキュラムに縛られない教育、なるべく平常で安定した生活環境の提供、また、戦争と暴力によって傷ついた子どもたちへの心理社会的な支援も行っています。毎日、センターが提供する様々な活動に、推定300〜400人の子どもたちが参加しています。一方、教師や子どもと一緒に活動している地元のスタッフに対しては、子どもの権利についての特別な研修も行われました。

アート・セラピーの学校:
 ユニセフとNCA=ノルウェー教会エイドは、イラクのNGOを支援し子どものためのアートセラピー学校の運営を手伝っています。プロジェクトの目的は子どもの創造性の開発と可能性の開花ですが、イラク社会において子どもの権利への関心を喚起することも目的に入っています。1日数時間という単位で、1日に180人(5歳児から18歳)が来校しています

ナジャフ州での「安全に遊ぶための空間」プログラム:
 労働と社会問題省(MOLSA)と緊密に協力しながら、ユニセフと国際救援委員会(IRS)は、アル・ナジャフ州において、安全に遊ぶための空間を設置しました。このプロジェクトでは、イラクの子どもと若者の健康的な成長を、レクリエーション、スポーツ、職業訓練を含めた、平常化を可能にするような、心理社会的な活動を通して推進しようとするものです。

修復:
 労働と社会問題省の建物の修復は終了し、現在は、ワシットとケルバラで、子ども用施設2つの修復が続けられています。ユニセフはMOLSA、そのほかの18州にある部署向けに必須事務用備品、コンピュータ、IT資材が入ったオフィス・イン・ア・ボックスを提供しました。

能力開発:
 国際共同コンソーシアム(ICS)とのパートナーシップ、さらにはMOLSAとバグダッド大学との緊密な協力のもと、「子どもの保護のトレーナーを対象にした研修会」がバグダッドで実施されました。主な目的は、保護を必要としている子どもを相手に活動するイラクのソーシャル・ワーカーの技術を促進することです。研修はオープンな環境でのソーシャル・ワークの必要性、家族の中の子どもにどのように支援の手を差し伸べるか、というものになっているます。プログラムは3ヶ月間行われ、プロジェクトは20のコミュニティ、約1万人の子どもをカバーしています。

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募金のお願い

 日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を行っています。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。