財団法人日本ユニセフ協会




イラクで包括的な教育調査
キャロル・ベラミー ユニセフ事務局長が声明を発表

ジュネーブ、2004年10月15日

 みなさん、おはようございます。
 またジュネーブに来ることができてうれしく思います。この機会に、イラクから届いた注目すべき教育調査結果についてお話したいと思います。我々は、その詳細さとその結果が表していることにおいてこの調査がすばらしいものであると考えています。新しい政府が、国の重要な社会セクターに対してはじめて行った包括的な調査である本調査は、イラクにとって画期的なものなのです。
  • まず、これはイラク政府が実施した調査です。ユニセフはこの調査を奨励し支援しました。またイラクの新政府が子どもたちの生活環境を改善するために責任を果たしていることを示すものとして、今回の調査を非常に歓迎しています。月曜日に、イラク教育省は、バグダッドで一般市民に対してもこの調査結果を公表しました。
  • この調査は、イラクの教育施設がすべて網羅されています。対象は、幼稚園から大学まで合計20,000校以上にのぼります。調査は、今年初めの2ヶ月間で実施されました。
  • 今年の2月以降の改善点はこの調査の中には反映されていませんが、2月より以前に、政府、国連機関、民間企業によって改善された点は反映されています。
主要な調査結果

  • 全体の就学率は上昇しています。初等教育レベルでは、データが存在する直近の年度である2000年には360万人の子どもが登録されていたのに比べて、現在は430万人の子どもが登録されています。子どもを学校に通わせることがイラクの一般家庭における真の願いであることの表れです。
  • しかし、学校設備は需要に追いついていません。調査結果によりますと、あらゆる学校で生徒数が定員を超えており、授業は多いところで1日3交替で、しかも破壊された建物を使って勉強をしています。全体の1/4以上(約2700校)の学校が修復を必要としています。
  • インフラ整備の問題は子どもたちの学習の質に大きな影響をあたえます。子どもたちは過密状態の教室、学用品の不足そして時間に余裕のない学習スケジュールなどの問題に直面しているのです。学習の質に関する事項は深刻な問題です。
  • 水と衛生関連の施設も代表的な問題です。3分の1の学校に水道水が供給されておらずまた半数近くの学校にはトイレがありません。なによりもこの事実が、女の子の学校へ通う上での妨げになっていて、就学率にジェンダー格差を生み出しています。
  • 最後に、戦争やその影響で被害を受けた学校は数千校にのぼることがわかりました。700校以上が空爆により破壊されそして3000校以上が略奪の被害に遭いました。その結果、イラク全土の学校では椅子や机そしてその他の基本的な学用品が不足しています。
 この調査結果が明らかにした問題は、最近の紛争にのみ起因しているのではないことを私は強調しておきたいと思います。実際には、イラクの学校は数年間に及んで腐敗状態にあり、それはイランイラク戦争にまでさかのぼります。

 イランイラク戦争、湾岸戦争、最近の紛争、そして数年に及ぶ制裁、孤立、旧体制下の不適切な政権運営による影響すべてがその代価です。

 よって、調査結果はイラク復興までの道のりが長いことを示してはいますが一方で、こういった問題が数年間にわたって積み上げられたものであるということを認識する必要があります。

 私達に何ができるでしょうか?人道的、開発的な活動が、現段階において治安上の問題で妨げられ、難しい状況にあるのは周知の事実です。これは、国連だけの問題ではなくNGO、民間業者そしてイラク政府の問題でもあります。

 英国国際開発省、日本政府などの主要な支援者が、教育部門に多額の投資をしています。ちょうど昨日、世界銀行が140校の修復と100校の建設資金としてイラク政府に資金提供することに合意しました。

 しかし、治安上の問題が実際の活動を困難なものにしています。これがこの問題の最も難しい部分です。教育環境を改善するための多くの資源と志があふれていると私は信じています。この段階で治安の問題が大きな障害となって立ちふさがっています。

 2つの理由から、私は皆さんにこの調査に注目していただきたいと思っています。ひとつは、深刻な状況下でありながら教育環境における包括的なそして真剣な調査をイラク政府が行ったということ。そして今回の調査は子どもの状況を知るために実施された初の全国調査であり、そしてそれを実施した政府は賞賛に値するということです。

 さらに大切なことは、すべての子どもに質の高い基礎教育を提供することがイラクにより良い未来をもたらすための入り口であるということです。就学率の増加は、子どもたちに学んでほしいというイラクの人々の思いの。教育は希望なのです。

 しかし、この調査結果によって明らかになったことは、学校環境はまだ満足いくものではないということです。平和でそして希望に満ちた国を建設するために、私たちはイラクの人々が、強くそして健全な教育システムを確立していくのを支援しなくてはなりません。いま私たちは、それにはまだ程遠い場所にいるのです。

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募金のお願い

 日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を行っています。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。