|
パレスチナ自治区で活動する国連機関による合同声明【2006年7月8日】 パレスチナ自治区で活動する国連の各人道援助機関は、子どもを含む罪のない一般市民が殺され、何十万人という人々が困窮に陥っている現在の事態をうけ、このままではパレスチナ社会に甚大な被害がもたらされるだろうと危機感を表明しています。すでに危機的な状態にあるガザ地区では貧困率が80%に達する勢いで、失業率も40%近くにのぼり、至急何らかの対策が講じられなければ状況はさらに急激に悪化するとみられています。 98万人の難民救援活動に従事する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、パレスチナ自治区ガザ地区の公衆衛生状態が崩壊の危機に瀕していると述べています。2006年6月28日、ガザ地区唯一の発電所が空爆され、同地区全体で毎日12〜18時間の停電が続いています。沿岸自治区の水道局は、自家用発電機で130基の井戸と33基の下水ポンプ装置を稼動しています。しかし、すでに必要燃料1万8,000リットルのうち5,000リットルしか残っていないため、水道局の日次稼動率は3分の1まで低下して飲料水が不足し、下水処理場も危機的状況にあります。さらに人道支援目的の供給ラインが制限されているため、230台以上の食糧コンテナがカルニ検問所で足止めされ、遅延による追加の経費負担も50万ドルに膨れ上がっています。 世界保健機関(WHO)は、公衆衛生システムが直面している危機は前例のない規模のものであると述べています。WHOの推測では、病院や基礎保健センターの約半数には発電機が備わっているものの、今ある燃料は最大で2週間分に留まるとされています。現在使用している発電機はもともと予備用に設置されていたもので、これらが使用不能になれば重大な結果を招くことが予想されます。先週WHOは、2005年の同時期にくらべ下痢の発生件数が160%増加していると発表しました。それだけでなく、常備医薬品のうちの23%は1カ月以内に在庫が底をついてしまうと推測されています。WHOはさらに、治療のためにガザを離れる必要がある患者の移送に対する制限が強化されたことに危機感を強めています。6月25日以来、エレツ検問所を通過することができたのは極めて危険な状態に陥った一握りの患者のみでした。以前は週平均25人のがん患者がエレツ検問所を通過していました。WHOの調べによると、現在、緊急患者移送率は月間500人から700人となっています。 世界食糧計画(WFP)では、支援物資がなければ、ガザ地区の全人口のうち70%は6月の時点ですでに日々の食事すら満足にとることができなくなっていたものと推定しています。対立の激化より、食糧確保がますます緊急の課題となりつつあります。製粉工場、食品工場、パン工場の稼動には電力が必要なため、電力不足によって各工場は生産量の削減を強いられています。さらにガザ地区の暑さの中、生鮮品を保存することができなくなり、各家庭でも多くの食糧が腐って食べられなくなるという状況が起きています。またイスラエルからの商品流通が制限されているため、砂糖、乳製品、牛乳の供給も極端に減少しています。結果として、食品価格はここ3週間で10%上昇。WFPは、ガザでもっとも食糧不足にあえぐ難民以外の16万人の支援活動にあたるほか、関係機関による協調支援策の一環として、さらなるニーズの発生に備えた準備を進めています。WFPは、この危機的状況の下、食糧事情のさらなる悪化を避けるために人道支援物資と人員の移送ルートを確保することが必要不可欠であるとしています。 ユニセフ(国連児童基金)によると、ガザ地区の子どもたちは危険な暴力、不安定な治安、そして恐怖と隣り合わせの生活を強いられています。電力と燃料不足のために、子どもたちが利用できる保健ケアや飲料水は質・量ともに低下しています。依然としてつづく戦闘は、子どもたちを精神的に追い詰めています。子どもの保護にあたる人々の話しでは、空爆と爆撃音のせいで夜尿症の割合が15〜20%増加するなど、子どもたちに極度の精神的抑圧と疲労のようすがうかがえるといいます。ユニセフが支援するカウンセリングチームも、支援の要請がとみに増加していると報告しています。ユニセフは、燃料と電力の安定供給が、ワクチンや薬の安全な保管と運搬、さらに基礎保健施設の稼動に必要であると述べています。ユニセフはまた、飲料水の不足や衛生状態の悪化によって伝染性の病気が発生した場合、最も危険に晒されるのは子どもたちであると重ねて訴えています。 国連人権高等弁務官事務所では、ガザ地区における軍事活動でイスラエル軍が武力を行使したことにより、パレスチナの一般市民の間に死者・負傷者が増加し、また一般市民の資産やインフラ施設が多大な損害を被っていると述べています。イスラエルが抱く安全保障上の懸念は正当なものである一方、国際人道法においては、いかなる場合においても一般市民と戦闘員との区別が尊重されなければならないという原則があります。さらに、ガザ地区からイスラエルへのミサイル攻撃を行っているパレスチナの武装勢力も、一般市民を戦闘目標にしてはならないという禁止条項に違反しているため、そのような行為を中止しなければなりません。これらの行動を即ちに中止し、一般市民を保護することによって、現在の人権状況の悪化を食い止めなければならないのです。 国連人道問題調整部(OCHA)では、ガザ地区の人々が継続的かつスムーズに人道支援と燃料の供給を受けられること必要だと訴えています。人道支援のニーズに十分対応するためには、ナハル・オズとカルニの両検問所を24時間開放しなければなりません。さらにOCHAは、エジプトで足止めされている250人の人々の渡航、およびガザでは治療が受けられない救急患者の搬送のため、ラファ検問所の再開を要求しています。国連による支援活動は戦闘により妨害されていますが、この窮状を回避するには人道支援活動だけでは足りません。発電所の破壊により140万もの人々の生活が一夜にして悪化し、その半分は子どもたちです。イスラエル政府には、被害を受けた発電所の復旧が求められます。国際人道法においては、一般市民への危害行為、および民生インフラ設備の破壊を回避すること、さらに集団的措置、威嚇、報復行為の禁止が紛争当事者の双方に義務づけられています。しかし、この紛争の代償は、理不尽なことに一般市民が払い続けています。OCHAは、イスラエル軍の軍事活動と砲撃の継続により、ごく近いうちに人道的状況がさらに悪化し、現存するインフラ設備や必要最低限のサービスにも被害が及ぶだろうと危惧しています。 国連の人道支援機関は、上記に述べたパレスチナの現状が、すべての紛争当事者・関係諸機関に各々がなすべきことを明白に物語っていると考えています。緊急の対策がとられなければ、さらなる人道危機に直面し、その結果、私たちが支援活動に取り組むこのパレスチナのコミュニティや施設・制度にもさまざまな影響が及ぶことになるでしょう。 |