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財団法人日本ユニセフ協会




ユニセフ現地報告会
紛争後のアフガニスタンの教育の現状とユニセフの取り組み

日時 2003年5月28日 (水)15:00〜16:00
場所 ユニセフハウス 1Fホール
報告者 ユニセフ・クンドゥス事務所 (アフガニスタン)
教育担当官・篭嶋 真理子 氏
 
 5月28日、ユニセフ・クンドゥス事務所の教育担当官・篭嶋 真理子さんの一時帰国に伴い、ユニセフハウスにて「ユニセフ現地報告会」が開かれ、タリバン政権崩壊以後2度目の新学期を迎えたアフガニスタン北部の教育の現状と、アフガニスタン北部におけるユニセフ(国連児童基金)の支援活動についてご報告いただきました。

篭嶋真理子氏

概略
 アフガニスタンは20年以上に及ぶ紛争と自然災害に苦しんできた国です。今でも戦車などが放置されるなど、その傷跡が残されています。1979年にソ連による侵攻が始まり、それに対してアフガン・ゲリラが台頭しました。1989年にソ連軍は撤退しますが、イスラム原理主義とタリバン勢力が増加し、タリバンによる支配が始まります。2001年9月11日の同時多発テロによってタリバン政権は世界中から非難を浴び、多国籍軍によってその支配が終わります。2001年12月のボン会議でアフガニスタン暫定政権が発足し、カルザイ氏を大統領として新たなアフガニスタンの国家建設がはじまり、現在では憲法制定の準備が進められています。

ユニセフの取り組み:教育機会の拡大と質的向上
ザハラちゃん  まずザハラちゃんという12歳の少女を紹介します。ザハラちゃんはタリバンが女子の通学を禁止していたため男の子に変装して授業を受けていました。ザハラちゃんの父親はそれに賛成しましたが、他の家族は心配でした。ザハラちゃん自身もお昼の礼拝のために体を清める時間になると全校生徒が裸になって体を洗うので、見つかるのではないかと思いとても怖かったそうです。しかし、現在では女子教育も徐々に再開されてきています。それでも学校がないため倉庫を貸してもらって勉強したり、2000人の女子生徒に対してトイレが1つしかなかったり、まだまだ不十分な環境の中で彼女たちは勉強しています。

 ユニセフは主に「バック・トゥ・スクール(学校に戻ろう)」キャンペーンと、教員のトレーニングを支援しています。2002年には300万人以上の子どもが教育を受けられるようになりましたが、2003年には子ども約400万人を対象に文房具を配布しています。カブール周辺は比較的活動しやすいですが、地方(北東部)になると、15日間歩かなくては行く事のできない村もあるので物資の輸送に限界があり、支援が届かないところもまだまだあります。

 冬休み中の教員トレーニングでは、教育省と共同で、教員1万8000人に対して子どもの発達段階を考慮した子ども中心の教育方法や、子どもに対する接し方、地雷事故の回避教育に関するトレーニングが行われました。アフガニスタンでは毎月150〜300人が地雷の被害にあっており、世界でも最も状況の悪い国だと思われます。また、アフガニスタンでは未だ男女差別が色濃く残っており、男女教員が一緒に働くということはありませんでした。こうした中、男女教員が一緒にトレーニングを受けられたことは非常に画期的なことで、教員たちもとても喜んでいました。また、ユニセフは校舎の修復や建設、学校用テントの配布も行っていますが、教室の数は今も足りていません。

女子教育の強化
 ユニセフは主に寺小屋式学校の支援、女性教員への支援、地域社会の女子教育への意識向上活動、女子のための学校設立支援、またトイレなどの衛生施設の設置を行っています。また、地域社会の女子教育への意識向上を図るため、地域住民の信頼を得ているムラと呼ばれる宗教的リーダーに、朝のお祈りの際などに拡声器で女子教育の重要性について話してもらうように努めています。こうした結果、2001年のはじめには3%だった女子就学率は、現在30%くらいにまであがりました。アフガニスタンでは共学は1〜2年生までで、それ以降は男女別学のため、女の子は女子校にしか通えません。しかし、女子校の数はまだ少なく、先生が自宅でボランティアで教える、自宅教育(Home Based School)がまだ多く見受けられます。ユニセフはNGOを通じて支援を行っていますが、自宅教育を支援すると正規の学校に行かなくなるというジレンマもあるので、バランスの取れた支援を心がけています。

予防接種で子どもたちを守る
ポリオ・キャンペーン  アフガニスタンの5歳未満児の死亡率は1000人中275人と世界で4番目に高い数値です。ポリオ・キャンペーンでは600万人、はしかなどの予防接種キャンペーンでは10万人の子どもに予防接種を行いました。ユニセフがトレーニングを行ったボランティアが、長距離を歩いたり、時にはロバに乗ったりしながら予防接種を実施しています。宗教的に影響力のあるムラに、朝のお祈りの際に予防接種のスケジュールを住民に伝えてもらうこともあります。しかし、女の子を人前に出したがらない親や、たまたまボランティアが訪問した時外出していることもあるので、予防接種実施後のモニタリングも重要です。モニタリングでは母親ひとりひとりに子どもが予防接種を受けたかどうかたずね、問題のあるときは管轄の病院へ行き、指導します。                          

妊産婦へのケアの強化
 アフガニスタンでは出生10万当あたり1600人の妊産婦が亡くなっています。特に状況の悪い北東部では10万あたり中6500人に達します。(ちなみに日本では10万あたり8人。)ユニセフは伝統的な助産婦のトレーニング、産婦人科医のトレーニング、出産施設の改善、そして破傷風の予防接種などを実施しています。

安全な水と衛生施設
 ユニセフは学校にポンプ付き井戸を設置して安全な飲み水の確保に努めているほか、十分な数の簡易トイレを設置し、衛生教育を推進しています。また、国内避難民のキャンプにも井戸を掘り、簡易トイレの設置を進めるなどの活動を行っています。

これからの課題
 今後の課題として、女子教育の機会の更なる拡大(特に地方で)、教育の質の向上 (教員のトレーニングの機会拡大や教育課程の見直し)、そして校舎の修復と建設があげられます。また、ジェンダーバランスに配慮した、戦争色のない教科書を作成する必要性もあります。 また、ポリオ撲滅、予防接種の強化、妊産婦死亡率の低下、アクセスが難しい地域への基礎的社会サービス等も重要な課題です。病院へのアクセスが難しい地域もたくさんあるので、予防できる病気はすべて予防できる体制を整えたいと思います。人材養成(政府役人の人材トレーニングや意識改革)や自然災害への対処にも力を入れていきます。

 そして、平和、治安維持の問題があります。部品が壊れて放置されてあった戦車に子どもが絵を描いてしまい、戻ってきた兵士がその戦車を町で運転していたというエピソードもあります。日本へ帰ってくる途中きれいなケシの花畑を見ることができましたが、違法なケシ(麻薬)の栽培で得る現金収入は紛争の原因になることも多いのです。

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◆Q&A◆
Q: 先生(教職員)の生活待遇が悪いとお話されましたが、ユニセフではどのような支援を行っていますか。
A: 給料は毎月15ドルくらいのはずですが、もらっていない先生もたくさんいます。バック・トゥ・スクール・キャンペーンでは学校用品、教材配布が中心で、ユニセフとしては給料を助けることはできません。WFP(世界食糧計画)のFood for Educationプログラムと協力して、教員に油や小麦粉が配布されています。こうした問題には各援助機関の連携が重要です。
Q: 女子教育の向上について、ムラの協力は得にくいですか?そのような場合、どうするのですか?
A: 難しいです。女性が行ってもだめなので、他の機関にいるイラン人の男性に頼んだりなど、言葉、宗教を共有する人を通じて間接的にアプローチしています。協力的なムラもいれば、とても非協力的なムラもいます。予防接種などは比較的楽ですが、女の子の教育はやはり難しいです。少しずつ、ムラを巻き込んでいかなくてはいけません。
Q: アフガニスタンで働いていて、危険を感じることはありますか?
A: 実際、現場にいると危険ということを忘れてしまいます。女性は一人で外に出られない、スカートをはけない、暑くても肌を見せられないなど不便なことはありますが。インターネットもないし、電話もあまりつながらない、そして持たされている衛星電話も通じないことが多い。他の事務所の情報はほとんど入ってこないんです。知らないと怖くない。発電機がうるさいなどの問題はありますが、食べ物はあるし、人々は親切だし、アフガニスタンは良い所です。

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◆報告者プロフィール◆
篭嶋 真理子 (かごしま・まりこ) 氏 
ユニセフ・クンドゥス事務所 (アフガニスタン) 教育担当官
奈良県出身。
同志社大学文学部英文学科卒業後、英語科教員として勤務。95年に英国ワーウィック大学に留学し、翌年教育の国際比較研究で修士号(MA)を取得。研究員を経て、98年にユニセフに入り、メキシコで教育プロジェクトの立案と実施、評価を担当。2002年、アフガニスタン北部のユニセフ・クンドゥス事務所に赴任、教育のアシスタント・プログラム・オフィサーとして、アフガニスタン北東部のバック・トゥ・スクール・キャンペーン等の実施とモニタリングを担当。