■栄養不良とジェンダーの問題 -1-
(質問・rsaekiさん)
単に食べ物が足りなくて栄養不良におちいるだけではなく、子どもを取り巻く環境が大きな要因の一つであるんですね。 子どもの成長に直接かかわる家族、特に母親の影響は大きいのではと思うのですが・・・。
(質問・tmoriさん)
女性の自立が栄養不良の子どもを減らす事に大きく関わってくると思いますが、母親を取り巻く環境の改善の取り組みなどを、もう少し教えていただけますか。母親のみならず、コミュニティー全体で子どもの栄養不良を防ぐような試みなど行われているのでしょうか。
<岡村恭子> rsaekiさんのご指摘のとおり、母親の影響は大きいので、コミュニティの活動はよく母親を中心的な参加者として行います。母親学級などで生の役に立つ知識を学んでもらうこと、知識を実行するための技術研修(離乳食の作り方など)、そして、お母さんがちょっとした所得を得られるような活動(市場でちょっと売れるような物を作るための資金を供与する)などです。
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© UNICEF/HQ04-0845/Guillaume Bonn |
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ただし、今日を生きることで精一杯の貧しいお母さん一人では、知識を与えてもなかなか実行できないこともあります。 だから、村のみんなで話し合う場や、地方の保健所・役所との協力が必要です。私が手がけている事業は、村の親達が——貧しくてなかなか保健所に行けない家族も——自分たちで子どもの体重を測って母子手帳の成長記録グラフに書き込み、どうすれば状況が良くなるか話し合い、お互いに助け合う場を作るというものです。
ここからt.moriさんの質問の一部に対する返答ですが、本当に貧しかったり、情報や選択肢がなくて、自分で解決策をとることのできないお母さんはたくさんいます。その場合、コミュニティで学びあったり、助け合うことが本当に大事なので、体重測定の後は必ずみんなで母子手帳を見ながら問題を話し合い、意見交換するような形をとっています。みんなで話し合うとなかなか現実的でいい解決策が出てくることはよくあります。
またまたネパールの話ですが、私たちがある村で話を聞いていると、隣村からわざわざ双子の赤ちゃんを連れてきたお母さんがいました。赤ちゃんは2人とも体重がなかなか増えなくて、 ずいぶんひどい栄養不良になっていたのですが、母親は活動が始まってから手を洗うようになったし、食べ物も栄養価の高い物を与えるようにしているし、どうしたらいいのかわからないということで助けを求めに来たそうです。
話を聞いてみたところ、土地のない貧しい家族なので夫婦は2人とも朝から晩まで日雇い労働などに出てしまっているらしく、お姑さんもいないとのことでした。昼間は誰がご飯をあげているの?と聞くと、10歳のお兄ちゃんがその役割を担っているそうなのですが、実際には何を何回、どれくらいの量を食べさせているかはわからない、ということでした。お兄ちゃんもあまり元気がなくて、学校にも行っていないようです。そんな家族に、「一日5回こまめに食べさせる」と知識を与えたところで、実行できません。
そこで村の人たちと相談してみたところ、他にも同じ悩みを抱えているお母さんたちがいて、みんなで交代で、誰かの家を借りてデイケアセンターのようなことをできないかな、という話になりました。でもみんなたいへんなので、じゃぁ、わりと暇にしているお姑さんに頼んでみようということになり、やってみたところ、最初はぶちぶち言っていたお姑さんも、子どもの成長が良くなっていることが母子手帳から明らかにわかるので、なんだかやりがいを感じるようになったそうです。コミュニティによる取り組みの一例であり、夫・姑対策の一つのモデルでもありますよね!
女性に関する取り組みについては、これまたネパールの話になってしまいますが(ネパールの方が、蓄積が多いのでごめんなさい!)、ある日データをいろいろ分析していて気づいたのですが、貧しくてカーストが低くて保守的な地域ほど、女の子の栄養不良率が異常なほど高い(60—80%!)ことに気づきました。男の子は20−30%なのに!そこでいくつかの村を訪ねてみたところ、宗教的には親の魂を弔ってくれるのは長男であるということと、女の子は結婚して出ていってしまうだけでなく持参金を用意しなければならないので、本当に家族にとって負担だという声が聞かれました。
会話の中で、栄養不良の娘をもっているお母さんから、「私たちのように貧しくて一握りのお米しかなかったら、あなたは息子か娘のどちらにあげる? 私の娘が栄養不良でも、病気になって死ぬかもしれないと言われても、どうしようもないじゃない。」と即答されてしまった時には、目の前が真っ暗になりました。お母さん自身がそうやって女の子としての同じような苦労をしてきたはずなのに・・・。 これ以上は私達にどうにかできることじゃないかもしれない、と本当に思いました。
でも一緒に働いていた村落開発員達がいろいろ工夫をして、自分の息子のところに来るお嫁さんが栄養失調で病気ばかりしていたら困るでしょう?これは家族だけの問題ではなくて、村全体の問題ではないの? せめて健康に育てるように、なんとか工夫できないかしら?といった話を根気よく続けたところ、お母さんたちも少しずつ心を開いて、「私たちも苦労してきたから、私たちの世代で少しでも良くなった方がいいかも」というお母さんたちが出てきて、家事にもう少し夫や姑の助けを得られれば、娘の栄養状態のことも考えて工夫する余裕ができるかも、という話が進んでいきました。
エチオピアでも、お母さんたちが何かできるように、子どもに資するような所得向上活動などを計画しています。