■「プランピー・ナッツ」 誕生の背景
<錦織信幸>「プランピー・ナッツ」のことでちょっと補足してみます。 岡村さんの説明で「プランピー・ナッツ」はみんなに適応するわけではなくて消耗症を呈する一部の栄養不良ためのものだという説明があります。 これに関して質問です。岡村さんのあげた3つの栄養不良の型のうち、どの型に属する子どもが一番危険な状態にあるでしょうか。
もうちょっと簡単に言うと、ここに2人の子どもがいます。
1.慢性的な食料の不足で成長が阻害されて背が小さい子ども(成長不良)
2.急激に食料が不足してやせちゃっている子ども(消耗症)
どちらの子どもの命が危険にさらされているでしょうか?
皆さんの感覚的な予想とどのくらい一致するか興味深いところですが、後者の2.消耗症の子どもの方が命の危機にあります。特に重症の消耗症の子どもたちは何もしないでいると、数ヶ月以内に数10%の子どもたちが死んでしまいます。
この重症の消耗症の子どもを見つけて「治療」する方法を「治療的食餌療法 Therapeutic Feeding」と呼び、主に緊急援助的な場面で実施されます。この治療的食餌療法は、いわゆる一般の食料援助とはまったく違うものです。なぜならば重症の消耗症の子どもは多くの場合は感染症などのほかの病気を合併していたり、もはや食欲がなくなってしまったりしていて、普通の食事を普通にあげるだけではなかなか回復が望めない状態になってしまっています。
ひとつの鍵はエネルギー濃度が非常に高い治療食品を頻回に根気よく食べさせることです(簡単にいえば子どもの胃は小さいので、いかに小さな胃でたくさんのエネルギーを摂るかということです)。かつてはこれにはほとんど例外なく高カロリーミルクというものを使用していました。これは簡単にいうとミルク+砂糖+油です。ボランティアさんもF-75, F-100などの製品名をお聞きになったことがあるかもしれません。 私はスリランカの紛争地では地元で手に入るミルク+砂糖+サラダオイルで、高カロリーミルクを作っていました。 ただこれだと、いっぺんにある程度のミルクを作らなければいけない一方で、作って早めに消費しないと腐ってしまったり、使用する水が清潔な水であることを保証するために労力を要するなどの理由で、病院とか治療センターを拠点に実施するしか方法がありませんでした。でも貧しいお母さんが一人の子どものために何日も病院に入院することは簡単ではなく、これが大きな問題でした。また飢饉などで非常にたくさんの子どもが急性の消耗症におかされたときに施設の側が対応しきれないなどの問題もありました。
|
© UNICEF Regional Office for West and Central Africa |
|
この状況を打開することになったのが最近の「プランピー・ナッツ」などの製品です。非常に高いエネルギー濃度を持ちながら保存性が高く、誰でも簡単にあつかえて、これによって治療的食餌療法の方法・プロトコール自体を変える大革命となりました。 これを使えば入院を続けなくても治療的食餌療法を続けることが出来るので、とくに地域ベースの治療的食餌療法が発展するきっかけとなりました。 さらに先は栄養不良の問題が大きな国において、「プランピー・ナッツ」のような類似製品を自国生産して輸入しなくてもすむようにしようとする試みも始まっています。 これがごく簡単な「プランピー・ナッツ」誕生の背景です。 他の栄養補助食品と何が違うのか、理解の助けになりますでしょうか。 とくに治療的食餌療法 Therapeutic Feeding というある種特別な、かつ救命的なプログラムで使用される点が重要だと思います。いわゆる食料援助の一環ではありません。