財団法人日本ユニセフ協会




被災地に初めて基礎保健サービスが届くように

【2007年10月8日】

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© UNICEF Pakistan/S Bisin 2007
25歳のハビバさんと2歳になる息子

25歳のハビバさんは地震で家が壊され、夫と4歳の娘の命が奪われた後の生活を淡々と説明します。「息子が生まれたばかりでした。息子はなんとか助かりましたが、夫はひどいけがをしました」彼女の声は悲しみで満ちています。「4時間はなんとか生きていましたが、保健施設がなく、周りに医者がいませんでした。だから亡くなったのです。」

2005年10月8日の地震では、73,000人以上の命が奪われ、その多くは子どもが女性でした。ハビバさんの住むガンター地域では384人が亡くなりました。パキスタン北西国境州のアライ峡谷に位置するガンター地域(人口16,000人)は、地震の前から基礎的な保健サービスをほとんど受けることができませんでした。300k㎡もの山がちな渓谷に散らばって生活する全人口(145,000人)のために、保健省からはたった一人の医師しか派遣されていませんでした。さらに、毎年冬には雪と地滑りのために3ヶ月間は地域一帯を移動することができなくなります。

新たな支援を差し伸べる機会に

地震が発生したことにより、パキスタンの遠隔地域で長いことの課題であった保健のニーズに対応し、今までサービスを受けられなかった人に対してサービスを提供する機会が作りだされました。

2007年2月、ユニセフはガンター仮設保健センターを開設し、出産前後のケア、婦人科・産科診療、母乳育児の支援、5歳未満の子どもの発育観察、定期的な予防接種、基礎的な保健情報の提供や衛生促進など、病気の予防と治療を組み合わせたサービスを提供しています。

鉄筋と木でできた2部屋ある建物は手術や外来患者の来診用、薬局として使われています。ユニセフは、救急車も提供しました。ユニセフが建設した20ヶ所の仮設センターのほとんどは、他の機関等によって恒常的な施設に建て替えられる予定ですが、ガンターではその予定はありません。コミュニティにとって、この診療所は唯一の保健施設で、全てのサービスは無料で実施されています。

「ここは、峡谷でも高地に建てられた初めての保健センターです。」ユニセフの緊急保健担当官タムール医師は言います。「ユニセフがこの施設を立ち上げるまでは、ここの人々は一番近い保健センターまで行くのに最低でも3〜4時間かかりました。これからは、ここのお母さんや子どもはプロの保健サービスをすぐに受けることができます。」

特別のケアは、巡回保健婦、女性予防接種員、医療技術者の3人の保健スタッフにより提供されています。

女性のスタッフが鍵に

ガンターは北西国境州のとても保守的な地域にあり、ヒンズーやイスラムのパルダ(女性の家庭外での移動を制限するもの)を厳格に解釈して規則としています。このコミュニティのほとんどの女性は、男性の医師に診てもらうことよりも、家にいるか、女性の専門家がいる一番近い保健施設まで長時間かけて行くことを選びます。

「女性の保健スタッフを被災地に派遣することは、女性の保健ケアを向上させます。女性の中には人生の中で初めて女性の保健員に会った人もいました。女性スタッフはガンターコミュニティを変える非常に大きな力となったのです。」ユニセフの保健・栄養担当アシスタントのワリ医師は言います。「村のために働き子どもの将来のために生計をたてる別の女性に出会うことは、非常に保守的な地域の女性を勇気付け、収入向上活動に参加する原動力ともなります。」

「昔からこのセンターがあったならと思います。そうしたら私の夫も助かったかもしれません。」ハビバさんは言います。「ここに来たのは初めてです。昨日、保健員が私の家にやってきて息子にはしかなどの予防接種をしてくれました。保健員がセンターのことを教えてくれて、来ることにしたのです。」 2007年2月以来、センターではガンターの750人の子どもに予防接種をしました。子どもたちは今まで一度も予防接種を受けたことがありませんでした。

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© UNICEF Pakistan/S Bisin 2007
巡回保健員のリズワナさんと患者

別の部屋では、35歳の巡回保健員のリズワナさんが若い母親へ保健と衛生についてのアドバイスをしています。「食事をする前やトイレを使った後は手を洗い、定期的にお風呂に入ってください」リズワナさんは女性に石けんを渡します。「疥癬などの皮膚感染症を多く見ます。これはきちんとした衛生習慣の欠如からくる症状で、この地域では残念なことに非常に多くみられます。」

サービスの質を確保し、また長期的な復興計画の一部として、ユニセフは保健当局やNGOパートナーと共に保健ケア従事者への集中研修プログラムを実施しました。被災後、600人以上の保健施設スタッフが研修によって保健に関する知識やスキルを身につけ、100万人以上がその恩恵を受けました。

さらに、2,600人の女性地域保健員が救急、保健モニタリング、家庭での基礎的な保健サービスの提供(ワクチンや基礎医薬品、新生児のケア等)について研修を受けました。さらに、家庭での出産には技術のある助産師が付き添うよう妊婦にアドバイスするよう研修も受けています。地域保健員は約20万世帯を受け持っています。

「ここの女性のスタッフはとてもよくしてくれて、自分の健康問題について何でも話すことができます。センターは私の家からとても近いし、この地域の女性は安心できるようになりました。」ハビバさんは言います。

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今回のような緊急事態に、世界中のユニセフの現地事務所が
いち早く対応できる体制づくりにも役立っています・・・

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