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公益財団法人日本ユニセフ協会
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フィリピン台風緊急募金 第29報
ユニセフ・フィリピン現地報告会
『復興への道のりを支えて−台風30号から9カ月』
井本直歩子・前教育専門官の報告

【2014年8月27日 東京発】

2013年11月8日、フィリピン中央部を襲った台風30号。子ども590万人を含む、1,400万人が被災し、400万人が家を失いました。台風から9カ月、被災地は現在も長い復興への道のりを歩んでいます。被災1カ月後から現地で支援活動にあたっていた前ユニセフ・フィリピン事務所教育専門官の井本直歩子氏が、22日、ユニセフハウス(東京・品川)での報告会に登壇し、活動の様子を報告しました。

甚大な被害をもたらした台風30号

台風で被災した学校。
© UNICEF Philippines
台風で被災した学校。

史上最大規模といわれ、甚大な被害をもたらした台風30号。その被害は家屋だけにとどまらず、農家が栽培していたココナッツの木はなぎ倒され、漁船は流され、港も壊滅状態になるなど、人々は生活の術を奪われました。建物の強度が十分ではなかったために被害にあった方や、予想以上の高潮が押し寄せ、避難所で被災された方もいたと井本氏が語ります。

教育専門官である井本氏は、教育部門全体の支援調整と情報の取りまとめを担い、被災地の教育復興に従事してきました。災害などの緊急事態が世界各地で発生した際、多くの団体が現地に入り、協力しあって支援活動を行います。井本氏によると、今回の台風30号による災害では、教育分野だけで約60の団体が支援にあたったといいます。多くの団体が共に活動する中で混乱が生じないよう、井本氏の役割の一つは、教育分野の被害状況や支援ニーズなどの情報の取りまとめや、支援活動を効率的に実施し、被災者に迅速に支援を届けるためのコーディネートを行うことでした。

被災から1カ月、学校が再開

テントの仮設教室へ通う子どもたち。
© UNICEF/PFPG2014P-0023/Reyna
テントの仮設教室へ通う子どもたち。

緊急事態下でユニセフは、子どもたちが安全に学校に通えるという、子どもの権利を守ることに重点を置き、まずは学校をできる限り早く再開させるための支援を実施。学校の再開にあたり、仮設教室のためのテントや教材を提供しました。仮設教室の設置で21万人がその恩恵を受け、また、50万人の子どもが教材を受け取りました。

フィリピンの教育復興に従事された井本氏が最も驚いたのは、フィリピンの人たちの教育に対する熱意だと語ります。自然災害などの緊急事態は子どもたちの生活を一変させ、時には子どもたちの心に大きな傷を与えます。そのような緊急事態下で教育がもたらす効果は多岐にわたります。学校での友達との交流や心のケアが、心の傷を乗り越える手助けとなり、“日常”の感覚を取り戻すことができます。また、両親も、子どもたちが学校に通うことで、生活を立て直すために時間を費やすことができるようになるのです。

しかし、緊急事態下では教育の重要性が十分に理解されず、支援が後回しにされることが多いのが現状です。しかしフィリピンでは、被災から1カ月後の12月頭には半数近くの学校が再開されました。井本氏はこの時のことを思い起こし、「子どもたちがたくさん学校に戻ってきてくれる時が、教育の復興活動に携わって一番うれしい瞬間です」と、語ります。これは、「学校を早く再開させなくてはいけない」という人々の強い想いや、教育に対する理解の高さ、PTAが被災した学校の清掃を自発的に行うなど、コミュニティの協力があってからこその成果だと井本氏は話します。

先生や生徒への心のケア

甚大な被害が出たレイテ島にある学校が台風から2カ月後に再開し、授業を受ける生徒たち。
© UNICEF/NYHQ2014-0252/Pirozzi
甚大な被害が出たレイテ島にある学校が台風から2カ月後に再開し、授業を受ける生徒たち。

井本氏は、フィリピンの教育に対する熱意は、教師からも感じられたと語ります。学校再開後、緊急時に起こりがちな教員の不足や質の問題は一切なく、補習クラスを自主的に行うほどでした。そのため、ユニセフは教師に対して子どもたちの心のケアの方法、緊急時の対応方法、防災教育のトレーニングを主に実施しました。

また、ユニセフは生徒や教師に対して心のケアも行っています。子どもたちにはスポーツ用品やおもちゃなどが入ったレクレーションキットを配布。被災後、十分に遊ぶことができなかった子どもたちが、少しずつ遊びを通して元気を取り戻していく姿が見られたと井本氏が語ります。また、教師や生徒がカウンセリングを通して自分の経験や感情を伝えることで、「自分が感じていることは特別ではない」という共感を得ることができ、精神面の回復の手助けになります。しかし、なかには家族や親族を失い、心を開くことができない子どもたちもいると言います。特に雨が降ると怖がり、子どもを一時も離したくないと言う親もおり、長期的な心のケアの支援が必要とされています。

“取り残された子どもたち”が生まれないように

前ユニセフ・フィリピン事務所教育専門官の井本直歩子氏
© 日本ユニセフ協会/2014
前ユニセフ・フィリピン事務所教育専門官の井本直歩子氏

90%ほどの子どもたちが再び学校に通うなか、なかには登校を止めてしまった子どもたちもいました。もともと病気がちであったり、両親が働いていないなど、脆弱な立場に置かれる子どもたちでした。そのため、教材がないことで学習機会を失っている子どもたちには教材を提供し、避難所から遠い学校に通う必要のある子どもたちには交通手段を提供、退学をした子どもには、ノンフォーマルな夜間の学校に通う機会を提供するなど、子どもたち全員が教育を受ける機会を得られるよう、特に“取り残された子どもたち”の支援が大切だと井本氏が訴えます。

日本のみなさまや国際社会からの支援を受け、フィリピンは被災前よりもよりよい社会を目指し、着実に復興への道のりを歩んでいます。しかし、未だテントで生活を送る人々がいるなど、住居や雇用の問題が残っています。また、最も影響を受けやすい最貧困層の人たちが、今後起こり得る災害の被害を受けることがないよう、最貧困層に重点をおいた防災の準備を整える必要があると井本氏は訴えます。

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