パキスタン緊急募金　第17報
パキスタンの子どもたちにポリオの予防接種を届けるための活動

【2009年10月29日　パキスタン発】

全国一斉予防接種キャンペーンの一環で、アフガニスタン国境付近近くに位置するパキスタン北西辺境州の保守的なパシュトゥーン人の暮らすガダブ地区で、子どもたちにポリオワクチンを届ける予防接種普及員ルクサナ・ビルキスさんは過去2ヵ月間活動しています。

ビルキスさんは、ベールとマントを着用して人口15万人程のガダブ地区を巡回しています。地域は貧しく、町には汚水の川が流れ、その周辺を蝿が飛んでいます。町には、埃っぽい道路を歩くブルカを着た女性数人だけで、子どもたちは瓦礫の中で遊んでいました。

このような劣悪な環境では、予防接種普及員の活動はより困難を極めます。経口ポリオワクチンの入ったクーラーボックスが届くと、普及員は5歳未満の全ての子どもにポリオワクチンを提供するために街を歩いて巡回します。

同地域だけで、およそ6万5000人の子どもがワクチンを受ける必要があり、女性普及員たちは各家を訪れて予防接種を実施しています。中には子どもの保護者が、子どもがワクチンを受けることに抵抗することがあり、ビルキスさんはこのようなケースに対応しています。

誤解をなくすために

保護者が子どもの予防接種を断る場合は、予防接種は安全でないという誤解や、家族による判断が大半を占めます。パンジャブ人で流暢なパシュトゥーン語を話すビルキスさんは、このような保護者の不安を取り除くために活動しています。今までに、彼女の説得により129世帯の子どもが無事にポリオの予防接種を受けることができました。

彼女は同キャンペーンに大きく貢献しています。ガダブ地区の地区支援調整員のトゥファイル医師によると、前回のキャンペーンで予防接種を受けていなかった子ども179人の内の173人が両親の合意のもと経口ポリオワクチンの投与を受けました。

ポリオワクチンを多くの子どもたちに行き渡らせることができた背景には、ビルキスさんのような予防接種普及員による保護者や学校、モスクへの懸命な働きかけがあります。

避難を余儀なくされた子どもへのワクチンの提供

パキスタンは、現在、世界でわずか４カ国になったポリオの流行が認められている国のひとつで、ユニセフとＷＨＯはパキスタン政府と協力してこの予防可能な疾患を根絶するべく活動しています。ここ数年のポリオの症例の報告によると、主に北西辺境州とカラチ地区で集中的に発症が確認されています。

パキスタンの北西辺境州では、ここ数週間に数千世帯が、政府と武装勢力の間で続けられている武力衝突を逃れ、避難民として到着しているため、これら避難を余儀なくされた子どもたちにも予防接種を提供する必要があります。

最近では、アフガニスタン国境近くの南ワジリスタン州から家族とともに逃れてきた生後17ヵ月の子どもがポリオに感染している例が報告されました。この幼児は、南ワジリスタンでは予防接種を受けたことがありませんでした。登録を受けたカラチでその後4回の予防接種を受けましたが、ポリオの発症を防ぐことができませんでした。

もう一つの課題として、頻繁な下痢症状が続いている子どもに経口ポリオワクチンを投与した場合、ワクチンの吸収に影響が出るということです。安全な飲み水が手に入らず、衛生環境が悪い地域では、子どもの体内に抗体ができるまでに10回以上の経口ポリオワクチンを投与する必要があります。

今後の課題

ユニセフは今後、人口2千万人で数百万人の子どもがいると推定されるカラチ地区への予防接種キャンペーンを実施する予定です。

カラチにはそれぞれ別の言葉と文化を持つ人々のグループが分散して居住しています。さらに、保守的な慣習から、女性が家から外を出歩くことは難しい上、男性は家庭内に入ることができません。女性の保健員がいないことも、この地域でキャンペーンを実施する上で大きな障害となっています。

このような問題に対応するため、ビルキスさんは現在、パシュトゥーン語を話す地域で活動するための45チームの予防接種普及員の女性を採用しているとトゥファイル医師は説明しました。

ポリオと拡大予防接種プログラムを担当するユニセフのメリッサ・コーカム広報官 は「ビルキスさんのように若く、教養があり、現地の言葉と文化を理解する女性の協力は、女性の識字率の低い地域でポリオを根絶する活動を行う際の要となっています。」と語りました。

「パキスタン政府と彼女のような献身的な人々の協力があれば、パキスタンの全ての5歳未満の子どもに予防接種を提供し、この予防可能な疾病を根絶することができると、私達は信じています。」
（コーカム広報官）