公益財団法人日本ユニセフ協会
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ソマリア干ばつ緊急募金 第33報
干ばつが奪った未来を取り戻してくれる移動式小学校

【2011年12月5日 ケニア発】

レベッカ・エクシさん(15歳)は、カロクタニャン小学校に通うようになる前の生活がどんなものだったのか思い出していました。あの頃は、ケニア北西部のトゥルカナに広がる広大な半乾燥地帯で、家畜のヤギの面倒をみる日々を過ごしていました。

レベッカさんは、伝統的な生活を送りながらも、いつかは学校に行きたいと強く願っていました。そうした中、レベッカさんの暮らす地域が長期にわたる干ばつに見舞われ、この放牧地帯一帯の大地は干乾びていきました。トゥルカナに暮らす遊牧民族の生活が、徐々に、追い詰められていったのです。

しかし皮肉なことに、干ばつは、この地域に壊滅的な打撃を与えた一方で、レベッカさんの願いを叶える結果になりました。「私の願いが通じたんです」と、レベッカさんは話します。ついに、レベッカさんは、学びの機会を得ることができました。

「私はこれからどうなるの?」

2年程前、レベッカさん一家は、わらぶき屋根で作られたドーム型の家屋が建ち並ぶ小さな村で、かごを編んだり、木炭を売ったりして生計を立て、他の数世帯の方々と一緒に暮らしていました。カロクタニャン小学校は、その村から2キロほど離れた場所に設置されました。

13歳のレベッカさんは、1年生のクラスに入学。移動式の建物のトタン屋根の下では、屋外で過ごす日々に終わりを告げ、読み書きの勉強を始めたレベッカさんの姿がありました。

「干ばつで、私たちの動物たちが死んでしまった時、私はこれからどうなるのかって自分自身に問いかけてみました。将来に繋がることを、今後どこで得られるのかって。だから、私は、学校に行かなくちゃって思ったんです。」 レベッカさんは、当時を振り返ってこう語ります。

僻地への支援

© UNICEF Somalia/2011/ Abdulle
ケニア北西部のトゥルカナ地方にあるカロクタニャン小学校で教えるクリスティーン・トゥケイ先生。

カロクタニャン小学校は、トゥルカナ地方の81箇所に開設された移動式の学校のひとつです。トゥルカナは、長い間、開発や行政サービスの普及などが進んでいなかった地方の一つで、「時代を超越して時の止まった場所」としても知られています。この移動式の小学校は、遊牧民族の子どもたちや農村部の子どもたちに基礎教育を受ける機会を提供しています。

2008年、ケニア政府は、ユニセフの支援を受けて、3つの村に暮らす約150世帯のニーズに合わせて、カロクタニャン小学校を開設しました。この学校には、2歳から17歳までの95名の子どもたちが入学。毎日、40人から50人の子どもたちが通っています。

この学校の唯一の教師、クリスティーン・トゥケイさんは、この学校ができたことで、この地域の子どもたちの間にあった大きなギャップが埋められるようになると話します。この学校が出来る以前、複数の子どもたちが一箇所に集まって勉強することはありませんでした。「(この学校が出来てから)中には、約3、4キロも歩いて通ってくる子もいるのです。」(トゥケイ先生)

午後、子どもたちの授業が終わると、この移動小学校は、教育を受けたことがないおとなのための学校に変わります。ある日、1人のお年寄りが、教室の外の岩だらけの地面の上に座っていました。彼は、そこで授業を聞き、学んでいたのです。

安全な水が鍵

© UNICEF/ Kenya/2011/Gangale
放課後、校庭で遊ぶトゥルカナ地域の子どもたち。奥に見えるのは、ユニセフが設置したトイレ。現在、近くの深井戸から水道を引く作業が進められている。

ユニセフは、カロクタニャン小学校に、移動学校用キット2セットと早期幼児開発キット(箱の中の幼稚園)2セット、また、レクリエーション用の道具や指導教材等を提供しました。また、男女別のトイレも設置。これらのトイレと一緒に設置された水場には、すでに完成した深井戸から水道管が引かれることになっています。

パイプが繋がれば、カロクタニャン小学校をはじめとする地域の学校や周辺の村々に、飲料水を提供できるようになります。現在、レベッカさんのお母さんをはじめ、村の女性たちは、何時間も歩いて水を汲みに行かなければなりません。雨が降らない場合は、手で浅井戸を掘って水を集めなくてはならない状態なのです。

水道が設置されれば、この地域全域の子どもたちとその家族が持続可能な生活を送るための大きな一歩となるはずです。

1日2回の給食

水不足だけではありません。トゥルカナ地方の子どもたちは、慢性的な栄養不良の問題にも直面しています。ケニアのいくつかの地域では、深刻な栄養不良に陥っている5歳未満の子どもの割合は全体の37パーセントに上り、最近の干ばつに見舞われた地域の状況が最も深刻です。

学齢期の子どもたちへの給食支援もあり、こうした状況には改善の兆しも見られています。カロクタニャン小学校の子どもたちは、世界食料計画(WFP)の支援を受けて、1日2回の給食が配布されています。この食事は、以前の収入源となっていた家畜を失い、牛乳や肉を得られなくなった牧畜を営んできた家庭の特に幼い子どもたちの命綱になっています。

「学校がある日は、子どもたちは、学校で食事をとることができます。家でご飯を食べさせる余裕のない親もいるのです。」 カロクタニャン小学校に4人の子どもたちを通わせるイペリト・エカデリさんはこう話します。

将来への準備

今回の干ばつ危機に見舞われる以前でさえ、トゥルカナ地方では、教育問題が深刻でした。この地域の初等教育の就学率は、ケニアの全国平均をはるかに下回っています。

子どもたちが住んでいる場所に「教育」を持ち込む移動式の学校は、放牧を営む人々とそうでない人々の間にあった教育格差を埋めるための持続可能な解決策の一つの形を示したのです。また、トゥルカナ地方では、こうした移動式学校に加え、60校の寄宿学校もユニセフの支援で設置されました。こうして、親が仕事をしている間も、遊牧民の子どもたちは授業に参加することができる状況が作られたのです。

干ばつや武力紛争などの状況があろうがなかろうが、レベッカさんはじめ、アフリカの角地域一帯に住む子どもたちにとって、教育は、将来のための知識を得、技術を高めることができる唯一のものにほかならないのです。

レベッカさんは語ります。「教育を受けることができれば、将来は豊かな生活を送れます。」「でも、教育を受けられなければ、そこには貧しい生活が待っています。何も得ることはできません。」