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財団法人日本ユニセフ協会



パキスタン緊急募金 第29報
350万人の子どもたちが感染症の危機に直面

【2010年8月17日 パキスタン発】

© UNICEF Pakistan/2010
カラチの避難民キャンプで。

建国史上最悪の自然災害のひとつと言われる洪水被害に見舞われているパキスタン。その影響を最も深刻に受けているのが子どもたち。350万人の子どもたちが、命を奪う危険性もある水を媒介とする病気の脅威に晒されています。

洪水被災地域では、水位が未だに上昇し続けています。今後モンスーンによる更なる洪水の発生が予想されており、国連は、再び多数の死者が発生しかねない状況に、警戒を強めています。

水を媒介とする病気

被災者が置かれている状況が悪化する中、専門家は、被災地でのコレラの流行の可能性を懸念しています。世界保健機関(WHO)は、パキスタン政府に対し、スワト渓谷北西部で報告されたコレラの症例の調査を要求しています。WHOは、今後3ヵ月にわたり、コレラ(予想される患者数は最大で14万人)、はしか(同15万人)、急性呼吸器感染症(同35万人)、マラリア(同10万人)や、下痢性疾患(同150万人)の発生の可能性があると推定しています。

© UNICEF Pakistan/2010
被災者数百万人に、感染症の危険が迫っています。

国連のモーリジオ・ジュリアノ広報官は、何百万人の人々が、肝炎や下痢を引き起こす疾患に陥る危険に直面していると話しました。

「最も懸念されているのは、水と保健の問題です。」「清潔な飲料水は、命を奪う可能性のある水を媒介とする疾患を防ぐために必要不可欠です。被災地の水は、汚染されています。清潔な水が不足している状況です。」(ジュリアノ広報官)

「ユニセフは、現在、毎日130万人の人々に安全な飲料水を提供しています。しかし、さらに数百万人の人々が、同様の支援を求めているのです。」ユニセフ・パキスタン事務所のマーティン・モグワンジャ代表はこう訴えました。「安全な飲料水を、早急にもっと多くの被災者に届けなければなりません。そのためには、(国際社会からの)追加の資金援助が必要です。それが無ければ、コレラや下痢、赤痢といった水を媒介とする病気が蔓延し、被災地の人々、特に、すでに衰弱し、病気に対する抵抗力が最も弱く、栄養不良に陥っている子どもたちの命を奪い始めることになります。」

多くの洪水被災地では、急性呼吸器感染症や皮膚病、栄養不良を発症している子どもの割合が既に危機的な水準まで高くなっています。

求められる国際社会からの支援
© UNICEF Pakistan/2010
避難キャンプに設置されたテントの中で。パキスタンを襲った洪水によって、多くの子どもたちが避難生活を余儀なくされています。

パキスタン国民のおよそ5人に一人が、この洪水の被害を受けました。死者は推定1600人。カイバル・パクトゥンクワ州、プンジャブ州、シンド州では、総計1500万人が被災しました。この洪水は、パキスタン北西部で2週間以上前に始まり、その後南部を飲み込み、これまでにパキスタン全土の4分の1が被災地となりました。国際社会は、こうした洪水被害者のニーズに応えるべく全力をあげていますが、現地で展開されている人道支援活動は、資金不足という問題に直面しています。

「パキスタンで緊急支援活動を行うために、当面(今後3ヵ月間)の活動資金として、4700万ドル(40億円あまり)が必要です。」(モグワンジャ代表) しかし、このユニセフの支援要請に対するこれまでの国際社会の反応は、非常に限られています。

パキスタンの洪水被災地を視察した潘基文国連事務総長は、国際社会に対し、洪水被災者への「前例のないほどの支援」を訴えました。

「胸が締め付けられた一日でした。」「世界中で起こった数多くの自然災害を目にしてきましたが、あのような状況は見たことがありません。」潘事務総長は、流失した道路、倒壊した橋、わずかな土地に孤立して、取り残されてしまった人々の様子を思い出して、こう話しました。

国連は、国連中央緊急対応基金(CERF)から、新たに1000万米ドルの追加支援を行うことを発表しました。国連が、パキスタン洪水被災地での人道支援活動に同基金から支出した金額は、これで総額2700万米ドルになりました。

必須の支援物資
© UNICEF/2010
チャルサッダの避難民キャンプの中に、ユニセフの支援で設置された仮設の保健センターで行われている予防接種活動。

ユニセフは、子どもたちの緊急のニーズに対応するため、最も被害の大きかった地域で、緊急支援物資を配布しています。また、大規模な感染症の発生や拡大を防ぐため、飲料水や衛生分野での行政サービスが一日も早く再開されるよう、パキスタン政府と共に取り組んでいます。

アブダル・サミ・マリク広報官は、ユニセフは、この他の州でも、栄養不良とそれに関連する病気を予防するため、高カロリービスケットを提供していると言及しました。

「今私たちが最優先で取り組まなくてはならないのは、人々の命を守るための支援です。」「子どもたちはいつも厳しい状況に立たされています。子どもたちは、喉の渇きを我慢できませんから、どんな水でも飲んでしまいます。そして、水様性の下痢やコレラ、マラリア、その他の疾患にかかってしまうのです。」(マリク広報官)

ユニセフは、これまでに総額36万米ドルに相当する支援物資を提供しました。この支援物資には、被災者500万人分の保健キット、栄養補助食品、助産キット、防水シートが含まれています。また、下痢性疾患に家庭で対応できる治療用に経口補水塩を提供していますが、予算が逼迫しているため、物資は不足している状況です。

洪水被災地の中でも人口が多く、感染症の発生や流行の危険性が高まっているバロチスタン州のシビ、ジャファラバド、サセエラバドでは、現地に設置した緊急支援センターを拠点に、ポリオとはしかの予防接種を開始しました。また、ユニセフは、パキスタン保健省、世界保健機関(WHO)と協力して、感染症の発生・流行を監視する早期警戒態勢を確立しました。

難航する支援活動

さらなる水位の上昇による被害を回避するべく、30万人以上の人々がシンド州のジャコババド地区から避難しました。

被災地では、時間を追うごとに水位が上昇し続け、状況は悪化しています。人道支援団体によって、避難キャンプが設置されましたが、大部分の被災地で、衛生面の支援は提供されていません。避難を余儀なくされた人々の生活は、悲惨な状況です。降り続く雨が、更なる洪水を引き起こし、食糧の空輸や道路の修復作業を更に難しくしています。

悪天候が続き、陸路でのアクセスが確保できていた地域でさえ、支援を届けることが困難な状況になってきています。そして、現在、ほとんどの被災地への支援は、空路だけが頼りです。