メニューをスキップ
公益財団法人日本ユニセフ協会
HOME > ニュースバックナンバー2014年 > ストーリーを読む
 

エボラ出血熱緊急募金 第33報
ナイジェリア:
広がる差別、エボラ回復者や接触者の苦悩
地道な啓発活動で、正しい知識を伝える

【2014年9月30日 ラゴス(ナイジェリア)発】

エボラで母親を失ったプリンスウェルさん(27)とマルティンスくんはくん(17)。「いずれ、どこかから伝わるのです。だから、自分たちの口から打ち明ける方がよいと思うようになりました」と語った。
© UNICEF Nigeria/2014/Esiebo
エボラで母親を失ったプリンスウェルさん(27)とマルティンスくんはくん(17)。「いずれ、どこかから伝わるのです。だから、自分たちの口から打ち明ける方がよいと思うようになりました」と語った。

西アフリカで感染が拡大するエボラ出血熱。家族やコミュニティへの影響が深刻化しています。感染拡大が続くギニア、リベリア、シエラレオネで、エボラの感染が始まってから少なくとも3,700人の子どもたちが両親もしくは一方の親を亡くしていることが明らかになりました。そして感染への恐怖から、孤児となった子どもが親戚からも拒絶されるケースが多く報告されています。

ナイジェリアでは、エボラから回復した人、感染者の家族、感染者に接触した人たちは皆、病気からの回復は、エボラとの闘いの一歩を踏み出したに過ぎないと感じています。回復後も、偏見との闘いが待っているのです。

* * *

接触者となった生活

17歳のマルティンスくんの母親は、エボラに感染して亡くなりました。マルティンスくんは母親の死と同時に、自分自身の人生の一部も失ってしまったように感じています。

母親がエボラの症状で病院に運ばれてから、エボラウイルスの潜伏期間である21日間、マルティンスくんは21歳の兄とともに追跡調査を受けることとなりました。

ふたりとも感染はしていなかったものの、エボラ患者との接触者となったことで、生活が大きく変わってしまったと語ります。

看護師の母親は、ナイジェリアで最初に報告されたエボラ感染者の治療を担当し、感染しました。それ以来、兄弟はホテルに身を隠すことにしました。

「家へは帰れませんでした。近所の人たちは、何が起こったのか知っていますから。偏見の目で見られることは明らかでした」と、マルティンスくんが語ります。

友達はこの兄弟から距離を置くようになりました。「マルティンスは感染者を増やすために教会に足を運んでいるんだ」という人々の会話を聞いたマルティンスくんは、気持ちが高ぶり、声を詰まらせながら話しました。「想像できますか?そんなことを言われているなんて、聞くに堪えません」

偏見

妻をエボラで失ったデニスさん(32)は、自身もエボラに感染したが健康を取り戻した。「もうエボラに感染することはないと周りに分かってもらうには時間がかかりました」と語った。
© UNICEF Nigeria/2014/Esiebo
妻をエボラで失ったデニスさん(32)は、自身もエボラに感染したが健康を取り戻した。「もうエボラに感染することはないと周りに分かってもらうには時間がかかりました」と語った。

マルティンスくんや兄弟は、母親の遺灰を故郷の村で埋葬したいと願っています。遺灰からエボラに感染することはありません。しかし、村のリーダーたちは埋葬を拒み続けています。

「『村にエボラを持ち込むな。ここに帰ってきて埋葬をすることは許さない』と言われました」と、マルティンスくんの27歳の兄、プリンスウェルさんが語りました。

プリンスウェルさんは母親がエボラに感染した時、別の場所で暮らしていました。母親がエボラで命を落としたことを自分の周りの人たちに知られたら、どのような目で見られるのか不安だと話します。

「人々は感染者や接触者に対する偏見をもっています。恐ろしいことを話しています。母親をエボラで亡くしたと打ち明けた時の周りの反応は、手に取るように分かります。多くの人たちが、走って逃げていくでしょう」

プリンスウェルさんやマルティンスくんは当初、できる限り周りの人たちに知れ渡らないようにしていました。しかし、それは避けることができないと考えるようになりました。

「いずれ、どこかから伝わるのです。だから、自分たちの口から打ち明ける方がよいと思うようになりました。人々が噂を耳にして偏見や拒絶になるよりは、何が正しくて何が間違っているのか、自分たちの口から伝える方がいいと思うようになったのです」(プリンスウェルさん)

人々の心に劇的な変化

ラゴスの市場で揚げたパンを売る女性。エボラの正しい知識があるので、エボラから回復した人もお店に歓迎すると語る。
© UNICEF Nigeria/2014/Esiebo
ラゴスの市場で揚げたパンを売る女性。エボラの正しい知識があるので、エボラから回復した人もお店に歓迎すると語る。

多くの回復者や接触者、そしてその家族が、同じような辛い経験をしています。

妻をエボラで亡くしたデニスさん32歳は、検査でエボラに感染していることを告げられました。回復をしたものの、エボラへの感染を恐れる周りの人の理解を得るには、時間がかかったと語ります。

「多くの人たちが私から離れていきました。友達や近所の人たちが、私を見ると逃げて行ったのです。なかには、私を家から追い出すように大家さんを説得していた人もいました」(デニスさん)

しかし現在、デニスさんの周りには劇的な変化が見られます。近所の人たちはデニスさんと会話を楽しみ、握手をするようになりました。今では家の隣の床屋で髪を切ることもできるようになりました。

このような変化が起こったのは、デニスさん自身が、近所の人たちやメディア、耳を傾けてくれる人たちにエボラについて打ち明けたからだと、デニスさんが語ります。もう身体にエボラウイルスはなく、病気が感染することはないと説明したのです。「偏見をなくすための一番の方法は、人々の知識を高めることなのです」(デニスさん)

ユニセフは町中や家々に啓発チームを派遣してエボラの感染経路や予防法を伝える活動を続けており、ナイジェリアでエボラを封じ込めるための主要な役割を担っています。

そして、社会啓発キャンペーンは偏見をなくすためにも重要です。

届き始めたメッセージ

市場の人でにぎわうバス停で、正しいメッセージが人々に届き始めています。

市場で揚げたパンを売る女性は、エボラに関する正しい知識が身についていると語ります。
「ナイジェリアで広まっている、『塩を入れたお風呂に入るとエボラに感染しない』という迷信は信じていません。もしマルティンスくんやデニスさんが店に来てドーナッツを買いたいと言ったら、彼らの手からお金を受け取ることや握手をすることにも抵抗はありません。何も恐れることなどないのです」と話します。

根強く残る誤解

しかし、だれもがそのような考えを持っているわけではありません。

エボラから回復した友達と会ったらどうするかと尋ねられた20歳のシメオン・オチビケさんは、「エボラに感染するのが怖くて、手は握れません」と答えました。

「その友達が、エボラに感染していないと病院で証明された上で退院したとしても、しばらくは近寄らないようにします」と、小さな青空市場で携帯電話の通話カードを販売するシメオンさんが続けます。「あなたがエボラから回復した人に触って、21日待ってもあなたが死ぬことがなければ、ぼくも触ります」とシメオンさんが語ると、友達も賛同の声をあげました。

エボラに関する誤解と闘うための社会啓発には、回復した人たちが自分自身の経験を語る勇気と、公衆衛生への脅威にもなっている人々の恐怖への対応が重要です。しかし、まだやるべきことが多いことは明らかです。

トップページへコーナートップへ戻る先頭に戻る