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アフリカ干ばつ緊急募金 第69報
ニジェール:支援のあり方を示す母親たちの姿

【2012年5月17日 ニジェール・ニアメ発】

© UNICEF Niger/2012/Therrien
生後1歳半の息子のモハメドくんを抱くレイハンナ・イブラヒムさん。モハメドくんは、急性栄養不良でニジェールのニアメ州病院で治療を受けている。看護師は、あと数日後には退院できると知らせた。

ニアメ州病院の栄養不良治療病棟は満床です。深刻な消耗症や、ガリガリになって骨に皮膚が張り付いたような状態など、重度の急性栄養不良の症状としてよく知られる症状を示す子どもたちで溢れています。しかし、この部屋からは、小さな扇風機の音に加えて、時折子どもの泣き声が聞こえる程度。とても静かです。

入院している子どもたちの傍には、心配そうな表情のお母さん方が付き添っています。こうした人々は、何時間も、時には何日もかけて、子どもたちに治療を受けさせるためにこの病院にやってきました。多くの人は、交通費を払う余裕がなく、親戚からお金を借りなければなりませんでした。中には、子どもたちを病院に連れて行くために、夫や親戚を説得しなければならない場合もあります。

ニジェールのお母さん方は、子どもたちによりよい将来を与えるために闘っているのです。

「私の願いは、息子が健康に育つことです。学校に行って、良い機会に恵まれるような人生を送ってほしいと願っています。夫や私とは違う人生を歩んでほしいのです」 こう話すのは、ロバと車に5時間揺られて、生後1歳半の息子のモハンメドちゃんを首都ニアメにあるこの病院に連れてきたレイハンナ・イブラヒムさんです。「息子が重篤な状態なので、心配していました。息子を失うんじゃないかと思っていました」

悪化する状況

乾期が進むにつれて、ニジェールをはじめとするサヘル地域の食糧危機と栄養危機の影響を受けている国々では、栄養治療センターに連れてこられる子どもの数が増加しています。

「子どもの入院患者数が、昨年よりも多くなっています」 栄養リハビリ専門病棟のアミナ・マノウ部長は、こう話しました。全国の重度の急性栄養不良の治療を受けている子どもの数は、4月以降、2010年、2011年度の同じ時期に比べて増加しています。

ニジェールで活動する人道支援団体が共同で発表した最新の報告書によると、ニジェールだけで、600万人以上が食糧不足に苦しんでいて、重度の栄養不良状態に陥る5歳未満児の数は、39万4,000人にのぼるものと見込まれています。これまでに治療を受けた子どもの数は、9万3,300人を超えました。

「病院に来る直前、夫が仕事を求めてトーゴに行ってしまいました。雨不足で、収穫は何もありませんでした。夫は村を離れ、仕事を見つけに行かなければならなかったのです。私たちの元には、ほとんど食糧はありません。その僅かな食糧も、親戚と分け合って食べています。次の収穫まで、このわずかな蓄えで何とかやっていくしかありません」 イブラヒムさんはこう語りました。

苦行に喘ぐ母子

© UNICEF Niger/2012/Therrien
ニジェールのニアメ州病院の栄養不良治療専門病棟で、娘のナフィッサちゃん(3歳)を見守るアイチャトウさん。ナフィッサちゃんは、マラリア、呼吸器感染症、重度の急性栄養不良から回復している。

アイチャトウさんも、同じような苦しい状況に置かれています。娘のナフィッサちゃん(3歳)が何も食べられなくなり、高熱が続いた時、彼女には、ニアメの治療センターに娘を連れて行くことしか考えられませんでした。夫が仕事を探しに村を出たので、彼女は、親戚から病院に行く許可をもらい、お金も借りなければなりませんでした。アイチャトウさんは、1000CFAフラン(約2米ドル)を借りて、1日かけて病院に辿り着きました。

母親であることは、アイチャトウさんにとって簡単なことではありません。保健センターまでの交通費を工面する余裕もない一家にとって、保健センターに来ること自体が大変なことなのです。アイチャトウさんは、毎朝、村から一番近い井戸まで、徒歩で2時間かけて水を汲みに行きます。夫は作物を育てていますが、昨年は雨不足のために、全く収穫がありませんでした。「もうほとんど食べるものがありません」「毎日、子どもたちをどうやって食べさせればいいのかと頭を抱えています。今まで、野生の木の実を食べて生き延びてきました」(アイチャトウさん)

ナフィッサちゃんが病院で治療を受け始めてから、12日が過ぎました。体重も1.2キロ増加し、遊ぶこともできるようになりました。アイチャトウさんは、ナフィッサちゃんが回復していることを喜んでいますが、家に残した他の子どもたちのことを案じています。アイチャトウさんは、特に、一番上の娘のことを心配しています。突然、家族のことを任された長女は、きょうだいの面倒を見るために、学校の授業を受けることができなくなっています。「長女には、勉強を続けて、将来につなげてほしいと思っています」

支援のあり方を示す母親たちの姿

5月9日、看護師が、アイチャトウさんに良い知らせを伝えました。ナフィッサちゃんは、もうすぐ退院できることになったのです。今後は、外来治療を受けながら、目標体重である8キロに届くまで、すぐ口にできる栄養治療食を処方されることになります。

「早く家に戻って、留守番をしている子どもたちに会いたいです」 アイチャトウさんは、満面の笑みでこう話してくれました。

イブラヒムさんやアイチャトウさんのような母親たちは、子どもたちを助け、家族によりよい未来を与えるために、できる限りのことを行っています。こうした彼女たちの取り組む姿は、国際社会に対し、支援を強化し、栄養危機から子どもたちを守るために必要なあらゆる手段を動員するよう訴えています。

まだ手遅れではありません。しかし、今、行動しなければなりません。ユニセフは、ニジェールでこうした支援活動を続けるための資金として、4,000万米ドルの支援を国際社会に求めています。