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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第38報
イラクからの報告

【2013年3月24日 バクダッド発】

ユニセフ イラク事務所子どもの保護専門官の野田真紀さんが、日本にはあまり伝わってこないイラクに逃れた方々の状況を報告してくれました。

シリア内戦勃発から2年がたちました。およそ200万人以上の難民が、レバノンやヨルダン、トルコ、エジプトなどの近隣の国々へ逃れています。私が活動しているイラクもその一つ。国連が、イラク北部のクルド人自治区ドホーク県のドミズに最初の難民キャンプを設置したのは、昨年の4月。難民の数は日に日に増え、これまでに10万人を超えました。これは誰もが想定していなかった数です。イラクには、首都バグダットから車で約7時間のアンバール県アルカイムにも、もう一つ大きな難民キャンプが設置されています。昨年8月に設置されたこのキャンプでは、現在、約5,000人の方々が、不自由な避難生活を強いられています。

ユニセフは パートナー団体と共に、この2箇所の難民キャンプで、飲料水や衛生設備(トイレ)の提供のほか、保健、教育、子どもの保護の各分野での支援活動を重点的に展開しています。私は、子どもの保護専門官として、“子どもに優しい空間”の設置や運営をサポートしています。また、こういった状況の中で発生し易い様々な形態の搾取や虐待、暴力からの保護や予防のための体制づくりも、私が担当する重要な仕事の一つです。

“安心”を得られない子どもたち

ふたつのキャンプの大きな違いは、“行動の自由”の有無です。ドミズ難民キャンプでは、人々の“行動”に特に制約はありませんが、アルカイム難民キャンプで避難生活をおくられている方々は、キャンプが設置されている地域が置かれている政治状況から、キャンプの外に出ることが禁止されています。また、治安状況もかなり違います。クルド自治区の治安はかなり安定し、私たちも自由に行動することが可能です。しかし、アルカイムを訪問する際は、私たち自身の安全を確保するために、事前に国連本部の了解を得ることが義務づけられています。例えば、先日アルカイムを訪れた時は、現政権に対する不満から、大規模なデモが行われていたため、車での移動が禁止とされ、イラク国軍のヘリコプターを使わざるを得ませんでした。

イラクに逃れているほとんどの方は、アブカマルというイラク国境に接する都市から来た方々ですが、アレッポから来たという家族にも出会いました。今年2月、アルカイムを訪問した時に、シリアとの国境にも足を伸ばしました。この国境は、政治的な理由で昨年10月から閉鎖されています。このため、多くの難民が、日々国境が開くのを待っています。こうした中でも、1日約100人から150人のシリア難民(90%は女性と子ども)が、医療サービスを受けるためだけに国境を超えることが許されています。緊急の治療が必要な場合は、アルカイム市内の病院に収容されますが、治療が終了すればシリアに送還されてしまいます。

 
アルカイムのシリア国境で

「子どもに優しい空間」

アルカイムの難民キャンプに設置された“子どもに優しい空間”(CFS)では、難民の方々自身がボランティアのファシリテーターとして、子どもたちと一緒に楽しく遊んでいます。ボランティアの方々が、子どもたちが描いた絵を見せてくれました。CFSの活動が始まった頃に描かれた絵は、戦車や爆弾、銃など、紛争に関連したものや、黒など暗い色を主に使ったものが多く見られます。CFSに通い始めて約3ヵ月。多くの子どもたちは、今、花や木など、自然の風景を中心に、華やかな色を使った絵を描き始めています。子どもたちの態度も変ってきたとボランティアの方々は語っていました。始めは、荒々しく、なかなか馴染めなかった子どもたちでしたが、今では、CFSにいつもやってきて、いろいろな活動に参加することができるようなったそうです。

 
「子どもに優しい空間」の活動が始まった頃、子どもたちが描くものは、戦争の光景ばかりだった   CFSに通い始めて3ヵ月。今、子どもたちは、自然の風景や自分の好きなものの絵を描くようになった

同じ頃、ドミズも訪問しました。寒さのピークを過ぎた時期でしたが、夜は5度を下回る、まだまだ寒い時期でした。難民キャンプでは、ユニセフはイラク政府と協力してCFSを設置し、子どもの保護のためのシステム作りをサポートしています。3月に入ってから難民の数が極端に増え、1日に800人もの方々が新たにキャンプに到着されています。キャンプの収容能力が限界を超えてしまっているため、資金的に余裕のある人や、親戚や知り合いがいる人の中には、ドホーク市内や、クルド人自治区の他の場所に避難先を求められる方々もいらっしゃいます。

 
ドミズ難民キャンプ   キャンプに設置された「子どもに優しい空間」で
(写真中央が野田さん)

国際社会の監視の目

イラクでも、国連安全保障理事会決議第1612号で義務付けられている「武力紛争と子どもに関する監視報告メカニズム」の設置が、ようやく正式に認められました。ユニセフは、パートナー団体と協力し、ドミズとアルカイムのふたつの難民キャンプで「シリアの武力紛争下における子どもに対する暴力・虐待」に関する情報収集を行い、国連安全保障理事会に報告しています。子どもたちは、悲惨な状況を語ってくれています。

ハッサンくん(12歳・仮名)は、シリアの首都ダマスカスから避難してきました。昨年12月、ハッサンはいつものように学校で授業を受けていました。すると突然、武装した軍人が学校に侵入し銃を乱射し始めたので、ハッサンくんの先生は、子どもたちを安全な場所へ避難させ、銃の乱射をやめるよう訴えました。するとその軍人たちは、先生の髪をわしづかみにし、中庭まで引きずりだし、子どもたちの目の前で銃殺したのです。ハッサンくんは、今でもこの光景が脳裏から離れず、怖い思いをしていると語ります。

こうした子どもたちをはじめとするシリアの方々への支援は、今、危機的な状況に直面しています。資金不足から、日々増加し続ける難民のニーズに応えることができていません。ドミズ難民キャンプのCFSは、現在、たった一箇所だけ。悲惨な経験を経てきた子どもたちに「心のケア」を提供するとても重要な役割を担った活動ですが、現在対応している500人で精一杯の状態です。

ハッサンくんのように、悲惨な状況を目撃し、心理的なダメージを受けている子どもたちは他にもたくさんいます。CFSを増やし、より多くの子どもたちに、そうしたダメージを和らげたり、必要に応じてより専門的なケアにつなげるシステムを構築することが必要です。トラウマの治療には、多くの時間が必要です。丁寧に一人ひとりをケアできる環境を確保することが必要なのです。最近は、家計を助けるために不適切な環境の中で働かざるを得ない子どもたちの存在や、買春、家庭内暴力、性的虐待などの報告も増えてきています。こうした問題に晒された子どもたちに適切に対応できる態勢を作ること、そして、これらの暴力や虐待を未然に防ぐための活動を強化して行く必要があります。

写真クレジット全て:(C)UNICEF Iraq/2013/Noda

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