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シリア緊急募金 第73報
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© UNICEF Iraq/2013/Niles |
イラク北部のアルバート難民キャンプに身を寄せるスリマンさん(左)と、ダウン症の息子モハメッド (右) |
12月3日は国際障がい者デー。 世界で最も多くの国が批准している「子どもの権利条約」では、生まれた場所や国籍、性別はもちろん、障がいの有無に関わらず、子どもの権利は全ての子どもたちに等しく与えられています。
シリア危機によって難民となり、イラクに避難したスリマン・ゴルギ一家には、障がいとともに生きる息子3人がいます。障がいのある子どもやその家族は、災害や緊急事態が発生すると、最も弱い立場の中でもさらに弱い立場に置かれ、支援サービスを受け入れにくい状況に陥りやすくなります。もっとも支援が必要な人に必要な支援を届けるために、ユニセフは活動しています。
イラクのスライマーニーヤ近郊にあるアルバート難民キャンプ。2,500人ほどのシリア難民が身を寄せています。スリマン・ゴルギさん一家もキャンプで暮らしており、キャンプには障がいとともに生きる人々も生活しています。
スリマンさんの長男ユーセフさんは、誕生時から体が麻痺しています。次男のモハメッドさんはダウン症、三男のヤセルさんは、腰を痛め、歩くのが困難です。
難民キャンプで、障がいのある三兄弟が少しでも生活しやすくなるように、ユニセフ・イラク事務所のアシア・アル・ヤセン水と衛生専門官は、数か月前にスリマンさん一家が難民キャンプに来て以来、支援を続けています。
「地面に横になるのは、長男のユーセフさんにはとてもつらいことでした。体がひどく痛み、四六時中、虫にかまれていたからです」とアル・ヤセン水と衛生専門官は回想します。
今では、ユーセフさんは、家族用テントに置かれたベッドの上で休めるようになりました。そのおかげで、家族は以前よりもユーセフさんのケアができるようになりました。
アルバート難民キャンプは、一時的に身を寄せるトランジット・キャンプです。数十キロ離れたところに、長期間生活できる難民キャンプが現在、建設されています。新たなキャンプには、傾斜スロープが設置され、トイレなどの衛生施設の周りに広いスペースが確保されるなど、特別な支援を必要とする人々が暮らすための設備も整えられています。
新しいキャンプは、数カ月内に完成する予定です。アル・ヤセン専門官は車いす15台とベッド15台を現在のキャンプに調達しました。さらに、障がいの有無に関わらずより多くの人々が職につけるように、雇用の機会を増やす呼びかけも始めました。
多くの親と同じく、スリマンさんは、ダウン症の次男モハメッドさんを心配しています。何もすることがないまま、モハメッドさんは毎日を過ごしています。
「モハメッドはサッカーもコンピューターも好きです。しかし、ここには息子が好きなコンピューターはありません」とスリマンさんは話しました。
© UNICEF Iraq/2013/Niles |
ユニセフが支援したベッドに横たわる長男のユーセフ(一番右)。ユニセフは、アルバート難民キャンプで暮らす、障がいがある他の子どもたちにも同様の支援を行っています。 |
今年5月発刊の『世界子供白書2013』は、1980年の第1号発行以来はじめて、「障がいのある子どもたち」をテーマにまとめられました。 障がいのあるこの子どもたちは、社会から忘れられ、あるいは無視され、家族に負担をかける存在として見なされることが多くあります。
ユニセフのアンソニー・レーク事務局長は「子ども(その人物)ではなく、“障がい”に目を向けることは、その子どもに対して不当であり、その子どもが社会に貢献できる全ての可能性も奪う行為なのです。子どもたちがそうした可能性を失うことは、社会も、その可能性を失うことなのです。子どもたちが何かを出来るようになれば、社会そのものが、何かをできるようになるのです」と訴えます。
『世界子供白書2013』では、障がいのある子どもたちのみならず、そうした子どもたちが住む社会も恩恵を受けるため、全ての人が平等に受け入れられる格差のない社会、すなわち「インクルーシブ(inclusive)な社会=誰もが受け入れられる社会」をどのように実現できるのか、検証し、提言しています。社会が、障がいのある子どもたちが“できないこと”ではなく“できること”に注目すれば、障がいのある子どもたちだけでなく、社会全体にとっても良い状況が生まれると伝えます。