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シリア緊急募金 第67報
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日本への一時帰国中に、ユニセフハウス(東京港区)で現地の最新状況を報告してくださったユニセフ・レバノン事務所の岩沢さん。シリアを逃れた子どもたちはもちろん、レバノンの子どもたちへの支援も必要と訴えました。 |
出口の見えない内戦が続くシリア。隣国レバノンには、周辺国で最大の約100万人の難民が流入しています。レバノンの人口は420万人。つまり、シリアからの難民は、レバノンの“全人口”の実に5人に1人に達しています。
レバノンに逃れた人々のうち、約40万人が学齢期の子どもたち(2013年末時点の推定)。この子たちに、そして、多くの難民を受け入れ疲弊しているホストコミュニティの子どもたちに、いかに支援を届けるかが大きな課題となっています。
10月11日(金)、レバノンでユニセフの教育専門官として活躍する岩沢久美子(いわさわくみこ)さんが、東京のユニセフハウスで、現地の最新状況の報告がありました。
© UNICEF LEBANON 2013 |
非公式テント居住区の様子。シリアで不自由の無い暮らしをしていた子どもたちが、上下水道も壁もない、吹きさらしのテントでの生活を強いられています。 |
レバノンでは、政府の方針として、いわゆる難民キャンプは設置せずに、コミュニティの中で難民を受け入れています。難民の住む地域は、当初シリアとの国境に近い地域に集中していましたが、現在は、ほぼ全土に広がっています。家賃が払えない人たちが、公有地・私有地の一角にテントをたてて生活する、「非公式テント居住区」と呼ばれる場所も、今では400箇所以上にできています。「『非公式テント居住区』では、定住につながることのないよう、(建物に)壁を作ることすら許されていません。上下水道もない、劣悪な環境に暮らす5万5千人(国連難民高等弁務官事務所の登録数)ともその倍ともいわれる人々に、いかに最低限の生活を保障するのかは大変難しく、特に、夏に着の身着のままで逃げてきた人たちにとって、これから迎える厳しい冬が大変です」と岩沢さんは言います。
困難に直面しているのは、シリアを逃れた人々だけではありません。岩沢さんは、「当初レバノンの方々は、シリア難民を好意的に受け入れていました。しかし、難民(の一時居住区)が貧困地域に集中していることから、難民だけが支援を受けることが不公平だという感情が広がりつつあります」と語ります。かつて『中東のパリ』と称され、多くの観光客が訪れていたレバノンの経済に、シリア危機が与えている影響も深刻です。そうした中、ホストコミュニティにとって、難民の受け入れは大きな負担となってきています。
ユニセフは、シリア危機前からレバノン政府と協力してきた強みを生かし、政府に寄り添って、教育、子どもの保護、保健、栄養、水と衛生といった分野で、支援を行っています。岩沢さんは、「ユニセフの使命は、困っている子どもを助けることです。シリア難民の子どもも、シリアから来たパレスチナ難民の子どもも、レバノンの貧困層の子どもも、すべて支援の対象です。シリア危機の影響でレバノン社会も疲弊しており、中長期的に見て、ホストコミュニティへの支援は不可欠です」と語り、レバノンの貧困層への配慮も重要であることを強調しました。
© UNICEF LEBANON 2013 |
シリア難民の子どもが描いた絵。涙を流しているのがシリアで、ピンクのハートがあるのがレバノン。 |
シリアから逃れてきた子どもたちについて、岩沢さんは、「2012年に、レバノン国内にいるシリア難民の子どものうち、就学できたのは20%のみです。内戦の影響で、出国前から学校に行っていなかった子どもたちもたくさんいます。このまま何もしないと、今年度、40万人の子どもが学校に通えない可能性があります」と、教育支援が緊急の課題であることを訴えます。
難民の子どもたちが学校に通えないのは、レバノンの公立学校にほとんど席が残っていないことに加えて、教育課程の違い(レバノンではシリアと違い、一部教科を外国語(英・仏)で教えるとのこと)、学校側の受け入れ体制の不足、紛争によるトラウマ、いじめや偏見、家計を支えるために多くの子どもたちが路上で働かなければならないことなど、様々な要因によるものです。
レバノンの公立学校で受け入れ可能な最大人数は30万人で、ほぼレバノン人の子どもでいっぱいです。ユニセフは、学校の受け入れ人数を増やすために、プレハブを作ったり、午前・午後のシフト制にする等の支援を行っています。また、「バック・トゥ・ラーニング」というプログラムで、今年末までに、5万人に就学支援と、15万人にノンフォーマル教育による支援を提供することを目指し、文房具・学費の支援、教員の研修、学校や臨時教室の改修、カリキュラムの作成等の支援を進めています。
「学校外でも相応の質の教育を受けてもらうことをめざし、教育省と協力して、小中学校課程に相当するノンフォーマル教育のカリキュラムを作成しています。場所は、学校の施設を午後や休日に借りたり、非公式テント居住区に即席の教室用のテントを作ったりして行います。内戦を体験したこどもたちにとって、心理ケアも重要で、レクリエーション活動を通して感情を表してもらい、必要な子どもたちにはカウンセリングも行っています」と、岩沢さんは現地の写真も交えながら説明をしてくださいました。
ユニセフは、これまでにレバノンにおいて、約6万8千人の子どもに教育機会を、約15万9千人の子どもに心理ケアを提供し、約67万5千人の子どもに麻疹、約21万8千人の子どもにポリオ・ワクチンの予防接種の実施などを支援してきました。また、テント居住区においては、4万2千人に移動クリニックによる医療支援を実施し、3万人が恩恵を受けられる水と衛生施設の建設も進めてきました。今後も、同様の支援をさらに多くの子どもたちに届けていくために活動していきます。
ユニセフ・レバノン事務所では、シリア紛争の影響を受けている子どもたちを支援するため、本年末までに約120億円を必要としていますが、そのうち、まだ20億円程度の資金が不足している状況。教育分野の不足額は37%にも達しています。一方で、難民の数は増加し続けているため、資金需要は、今後さらに増えることも予想されています。
シリアの子どもたち、そして彼らを受け入れているレバノンの子どもたちが、それぞれの国の将来を担っていけるよう、紛争後の中長期の対応も視野に入れながら、ユニセフは引き続き支援を続けて参ります。みなさまのあたたかいご支援をお願いいたします。