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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第39報
命を守る靴

【2013年3月25日 シリア発】

シリア難民の方々が身を寄せている2つの地域に、子どもたちへの支援物資を届けたユニセフ・レバノン事務所職員の報告。

© UNICEF Lebanon/2013/Azakir
ユニセフとパートナー団体のカリタスレバノンが配付した支援物資の箱を受け取る子。レバノンは、現在、数万人のシリア難民を受け入れている。

身を切るような風を受けながら、真新しい靴が入った支援物資を車から下ろしている傍では、子どもたちが、尖った石やガラスの破片、ゴミなどが散乱する地面の上を、素足で駆け回っていました。

足を引きずっていたアスマちゃん(7歳)は、歩くことに疲れ、地面に座り込んでしまいました。熱湯で火傷を負った彼女の右足は、包帯で巻かれています。

レバノン東部のバールベック近郊のこの場所。背後に雪を頂いた山々がそびえ、絵のように美しい景色が広がっています。しかし、その風景とは対照的に、シリアの子どもたちが置かれている状況は、彼らが置かれている厳しい現実を映し出していました。

何も無い生活

レバノンは、シリア周辺国の中で、現在、最も多くのシリア難民を受け入れている国です。レバノンとシリアの国境に程近いベッカー地域には、“公式”の難民キャンプは無く、多くの人々は、廃材を使って仮住まいの家をつくり、避難生活を送っています。こうした場所では、人として尊厳のある生活を送るために必要な物資が不足しています。トイレはおろか、シャワーや洗濯、調理する場所もなく、清潔な飲料水を日常的に利用することもできません。

飲料水を買うことはできますが、そんなお金を持つ人はほとんどいません。仕事を得るための競争は激しさを増しています。あるお母さんに、「洗濯にはどの水を使っているのか?」と尋ねると、彼女は、ぬかるんだ汚水が溜まっている水路を指差しました。

今年の冬は、例年にないほどの寒さに晒されているこの地域。防寒着や毛布、燃料を一日も早く届ける必要があります。そして靴も。

靴−無くてはならないもの

© UNICEF Lebanon/2013/Azakir
多くの人々が避難生活を送るベッカー高原で、支援物資の防寒着とブーツを受け取る順番を待つハナアさん(左)と姉。厳しい冬の寒さが続く中、靴さえ持たない子どもも多い。

この場所で避難生活をおくっているアスマちゃんはじめ数人の子どもたちの小さな足には、化膿した傷や水膨れが見られました。アスマちゃんは、2人の兄弟と祖母、いとこたちと共に避難してきました。「家にあったものは、みんな焼かれてめちゃくちゃになってしまいました。シリアからここまで、裸足で逃げてきたんです」 幼い弟や妹たちの面倒を見ていたアスマちゃんのいとこ、ナーラさん(17歳)は、こう話してくれました。

医薬品やトイレ、清潔な飲料水が手に入らない状況の中で、靴は、こうした子どもたちを守るために無くてはならないものの一つです。靴は、寒さや風邪から子どもたちを守ってくれるだけでなく、ゴミだらけの場所を裸足で走り回ることに起因する、様々な健康上の危険からも守ってくれるのです。

ユニセフ・レバノン事務所のオリビエ・ムレット支援物資担当官は、次のように語ります。「民間企業をはじめとするドナーの皆様のおかげで、ユニセフは、これまでに、パートナー団体と協力して、靴や冬用衣類、毛布、燃料といった、子どもたちの命を守るために必要な支援物資を、12万5692人の子どもたちに提供することができました」

「ずぶ濡れになっちゃうんだよ」

ベッカー高原のぬかるんだ大地にできたもう一つの“避難地域”で、ユニセフは、地元NGOのサワと協力して、子ども用の冬服を配布しました。

服の配付を待つ子どもたちの列では、はじけるような笑顔を見せながらハナアちゃん(10歳)も並んでいました。弟と妹たちを抱き寄せ、支援物資を載せたトラックの傍に座っていたハナアちゃん。彼女の一家は、わずかな衣類と木の実だけを手に、バスでレバノンに避難してきました。

「ときどき困った事になるの」と、ハナアちゃん。「雨が降ると、どこもかしこもぬかるんで、皆びしょ濡れになっちゃうの。病院が必要よ。病気になったらそこで治療できるから。学校も必要。学校が一番大切よ!」

資金不足という足枷

これらの場所で避難生活をおくっている子どもたちは、現在、正規の学校に通っていません。シリアから逃れて来た人々は、子どもたちを地元の学校に通わせるのに必要な交通費などのお金を工面できるだけの余裕がないのです。子どもたちの父親の多くは、元々シリア国外で働いていた移民労働者で、紛争勃発後、家族をレバノンに呼び寄せました。このため、多くの人々が難民としての登録を受けることができないのです。また、登録しようとしない人もいます。現在公表されているシリア難民の登録・申請者数は35万1,683人。しかし、こうした人々は、この中に含まれていません。

シリアの緊急事態に対する国際社会の反応は鈍く、多くの支援団体が資金不足に直面しています。そうした中でも、ユニセフは、多くの方々のご協力を得て、防寒着や靴をはじめとする必要不可欠な支援物資を支援することができています。

「今日は、とっても嬉しかった。箱を開けたら、服やブーツが入っていたの。最高に幸せよ」ハナアちゃんは、輝くような笑顔で、こう語ってくれました。

お別れの挨拶をすると、ハナアちゃんの11歳になる兄が駆け寄ってきて、私たちが子どもたちにあげたチョコレートの半分を渡そうとしてくれました。「大変な時、人の最悪な部分と最善の部分が現れる」という、レバノン人の同僚から聞いた言葉を思い出しました。

今日は、子どもたちが人間の最も素晴らしい部分を見せてくれました。この子どもたちの“世代”を失うことはできません。失ってはならないのです。

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